1 - 6 星空 ページ7
.
泉が慣れたように踊るのは、『Knights』の曲の数々。
もう、頭に染み付いて離れない曲。
スマホから流れる音だけで、頭の中に広がる6色ペンライト。
紺、青、赤、黄、紫、そして、オレンジ。
離したくない、離れたくない、Knightsの色。
「…」
蒼い瞳の奥に、きっとオレンジはまだ残ってる。
「…A？
大丈夫？」
気付いたら、目の前に顔があった。
不安そうな顔が、僅かに傾いている。
「…あれ、まだ1分50秒くらいじゃない？」
頭の中の空想が、パッと消える。
「……そうだけど
違うもの見てるみたいに動かないから」
”違うものを見てる”
──間違っては、いないのかもしれない。
「…っ、A？」
頬に手を伸ばすと、泉はビクッと揺れた。
その頬は、酷く冷たい。
伝った汗を指で払って、ただぼうっと見つめていた。
彼は、この顔が、声が、全部が、大好きだった。
…きっと今も、ずっと。
「…今日、レッスンだね
…曲が聴きたいな
Knightsの曲、いい？」
少し微笑んでみた。
蒼い瞳が丸々としている。
「…いい、けど…
…何、どうしたのぉ…、……離して、」
「…ああ、うん、ごめん」
パッと手を離すと同時に、泉はふいと背を向ける。
私は過去を、ずっと追い続けている。
手放せずにいる。
ずっと、ずっと。
「……泉、踊って」
「…え？
……その、つもりだけどぉ…」
「…目の前で、踊って」
「…何、どうしたの、
A…？」
また泉は振り向いて、しゃがんで。
涙は、もう枯れた。
シナリオに、泣く場面はない。
「…なんてね
やっぱり今日は全部みたいなぁ
歌もダンスも
泉は今の時間で完璧にしようよ
みんな驚くよ」
体育座りで、肘をついて、笑って見せた。
泉は首を傾げながらも、目の前に立ってスマホ片手に舞う。
やはり、頭に浮かぶのは過去。
ペンライトの夜空が、頭から離れない。
青一面に染まる海色も
赤一面に染まる薔薇畑のような色も
黄一面に染まる向日葵畑のような色も
紫一面に染まるの藤畑のような色も
紺一面に染まる深海色も
オレンジ一面に染まる、夕焼け空のような色も
どれも、綺麗だ。
忘れられない、大切な色。
何度も聴いたって、これらだけは、飽きることない不思議な景色、音色。
いつだってそこには
失いたくない笑顔が、輝いていた。
.
Story 2『 atonement for our’s sin』→←1 - 5 非演者
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 245人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
