6 - 6 魔法使い ページ42
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青々しい草木の中にひとつ、ピンクの花弁。
仄かな風だが、今にも飛ばされそうに揺れていた。
「すまないね、A
気を遣わせてしまって」
「気にしてないよ
もう平気？体調は」
「薬を飲んだからね
もう平気だよ」
練習室の開け放った扉からは、風が吹き込んでくる。
やはり、夏が近付いているようで、風は生温くさえ感じる。
「弓弦くんと桃李くんも気付いてたよ
具合が悪いならすぐ言わなきゃ」
「それ、渉にも同じこと言われたよ」
「だろうね」
くすくすと笑うと、それに便乗するように風もそよそよと吹く。
「Aも無理をしているね」
「……え？」
不意打ちに近いそれに、きょとんとする。
渉が何か入れ知恵でもしたのだろうか。
「具合悪そうに見える？」
「違うよ
体調は至って元気そうだ」
「ええ…」
なんて答えたら良いのか分からず困っていたら
英智はただ笑って言った。
「心が、だよ
最近のAは、心から笑っていなさそうだからね」
─明るい顔、したことないよね
「……何でかなぁ
誰かに言われたの？」
「どうしてだい？
僕自身が思ったことだよ、素直にね」
「…分からないなぁ
何でだろう、そんなに楽しそうじゃない？」
天然なのか、そうではないのか。
どちらにせよ、心が読めない者は『シナリオ』からずれた途端にどう動くか分からなくなる。
何かを隠し持った笑みを浮かべる”凛月”もそう。
「A”達”にはこれからする行動も何もかも
何故か見透かされているような気がするよ」
少し置いて、『なんてね』と英智はいたずらな笑みを浮かべる。
冷や汗が背を伝った。
暑さ故か。それとも。
…英智は不意に違う動きをしかねない。
……彼の笑みは、そんな感じがする。
「エスパーじゃないんだから」
そう言って、笑い飛ばす。
その笑顔さえ、彼には暗く見えていると言うのか。
品定めのような瞳はすぐ、ふっと細められた。
「ふふ
そうだったら面白いのにね
魔法使いになれるよ、A」
「魔法使いとエスパーは違うよ
エスパーは、よむことしかできない
魔法使いは、思うがままに、色んなことを叶えられるんだから」
魔法使いになれたなら
それはどれだけ良いことだろう。
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最後の桜の花弁が一枚、
風に吹かれて散っていった。
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