4 - 1 リグレット ページ23
.
自らに寄り掛かって、小さな寝息をたてた少女に
少年はただひたすら、”子守唄”を奏で続ける。
嘗ての彼らの曲を、ただひたすら。
「…、…好きだったもんねぇ
あんたは、…俺達が」
独り言のように、ぽつりと、呟いた。
甦ってきた記憶の数々を、頭の中で巡らせて。
ぼんやりとしか、彼は覚えていなかったけど。
「…飛び降りるの、怖くないの」
ぽつり。
「…ひとり、寂しいよね」
ぽつり。
ピアノの音が、消えていく。
「……あんたは何が欲しいの？
王さま？俺達？
…それとも、……消えちゃった過去かな」
揺れた赤い瞳は、寝ている少女を捉える。
触れずに、ただ、見るだけで。
でも不意に、手を伸ばして、髪だけに触れて。
「望み、叶えてあげるよ
…兄者に比べたら、頼りないかもだけど
……あんたが望むことなら、ぜんぶ」
髪にもただ触れるだけで、すぐに手放し、
また鍵盤に触れた。
窓から吹く風にのって入ってきた桜の花弁を視界の隅に置いて。
「…あんたは一体、何が欲しいの
俺達の何が、…あんたをそこまでさせるの」
──嬢ちゃんが繰り返す原因は間違いなくお主らにある
彼には何も分からなかった。
『シナリオ』が繰り返していて、
少女が自分達のせいでそれを実行しているということしか。
そうして彼は、知っていた。
自身がこの『シナリオ』の最後に抱く、少女への気持ちも。
宵闇の中に輝く神々しい月に目を細めて。
暖かい温もりを傍に感じて。
夜に元気な彼は、その月に手を伸ばした。
「…あんたはこの世界を見てるようで、別世界を見てる
………俺は、もうちょっとで思い出せちゃうよ
あんたらの言う『シナリオ』ってやつも」
そっと手を下ろして、自らも目を閉じた。
諦めるように、…何かの決意をしたように。
「…全部思い出しちゃったら
俺はもう、『シナリオ』通りには動けない」
春の夜風はまだ涼しく、肌を刺すようだった。
「…また
…俺が絶対に許さないから」
記憶の中の、少女を辿って。
「…だからごめん、…A
……俺は『シナリオ』通りには動かない」
目の前で飛び降りた少女。
頭に染み付いた記憶に残った後悔を乗せて。
『”非”演者』はまた、動き出す。
「…おやすみ」
.
4 - 2 傍観→←Story 4『 heart reset 』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 245人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
