3 - 6 風まかせ ページ21
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何度聴いたって、ピアノは飽きない。
「この曲、初めてだよね」
そう、弾きながら言った凛月に
『このシナリオ』では最初のピアノに、笑って頷く。
「うん、…綺麗な曲
私好きだよ」
「…Aがピアノ好きなんて知らなかったなぁ
1年前はあんまり関わらなかったし…？」
何度も繰り返しているせいか
”演者達の言う一年前”の記憶は然程ない。
記憶にあまり残っていなかった。
「…そうだね、
その時は、…今のあんずちゃんみたいな、研修期間って感じだったから
いろんなユニットを回ってたしね」
とはいえ、あらすじは大方入っている。
『シナリオ』で言う、細かい台詞を覚えていないだけ。
「成長したねぇ、A
すっかりセッちゃんにも大事にされちゃって
…スーちゃんは入ってきたばっかりで遠慮がちだけど」
「…泉が？
司はなんか、そんな感じしてたけど…」
「スーちゃん、遠慮がちだけど
まあ、Aの顔面にドアぶつけたりもするからね
…セッちゃんは案外大事にしてるよぉ？
……じゃないとライブ終わりにすぐ誰かのところなんかいかないし」
「え、
……凛月」
急にピアノの音が止んで、顔がこっちを向く。
「見ただけだよ
何も聴いてない
…そーゆーの趣味じゃないし、なんて俺が言うか、って感じだけど」
それだけ言って、また凛月は弾き始める。
凛月は何を知っていて何を知らないのか。
まだいまいち掴み損ねていた。
「明日からも頑張らないとね、って話
聞かれても大丈夫なやつ」
そう笑って見せると、凛月も口角を僅かにあげる程度の笑みを浮かべ、ゆっくり瞬きをした。
「…そーなんだ」
ピアノは響いていたけど、その後の沈黙が妙に気に障って
すぐ、別の話題を口に出す。
「…そうだ、Trickstar、fineに勝ったって
真緒くん、良かったね」
そう言うと、凛月はピアノを弾いたまま特に関心もなさそうに相槌を打って。
「…そっかぁ」
「…あれ
興味なかった？」
そう問うと、凛月は笑ってピアノをまた止めた。
「…凄いとは思うかもだけど
今の俺にまーくんは関係ないでしょ？」
そう言って、立ち上がって。
手を後ろに回し、凛月は笑みを浮かべて言った。
「そんなことはいいからさ
今日、俺とお泊まりしよーよ」
傾いた夕陽が、笑った凛月の表情を照らし
より一層、明るく見せた。
「……え？」
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