2 - 5 人形 ページ13
.
「……それで僕のところに来たというわけかね？」
目の前の彼に、頷いてみせる。
彼の隣には、可愛らしい女の子が”ひとつ”。
「…マドはどう思う？」
優しく指先でつついてみると
『マド』はふわり、横へ揺れた。
『そうねぇ
Aちゃんは、変えたいシナリオ以外は変えちゃダメよ
その子に対する不必要で過剰な接触も当然ダメ
その子がシナリオを大きく変えかねないわ
…そうなれば、この元のシナリオだって変わってしまうもの』
「要は、不必要なリスクは控えろ、ということなのだよ
君が己の安定の世界を自ら放り出す必要はない
今のこの世界で、確実に君の願いが叶うシナリオをいけばいいのだよ」
話している間にも、『宗』は薄暗い部屋で手を忙しなく動かしていた。
宗の目線がこちらに向くことはない。
宗の記憶には、”過去”が残っている。
ユニット内で仲直り、したことも
Valkyrieのある意味の復活も。
「…宗、なずなくんには会ったの？」
「繰り返す前ならばね
”今”は演じなければならないのだよ、”本来のストーリー”を」
「…、そっか」
ただマドをつついてはため息を吐く。
静かな部屋で、それだけが響く。
途中で突然宗が言う。
「……Aと僕が一緒にいる所はあまり見られてはいけないよ」
「…え？」
「このシナリオで、僕達は関わるようになったのだから
回りが見たら怪しむだろう」
「…何、急に、
…わかってるよ、それは
…でも、宗達がいないと一人になっちゃう」
「……、Aは綺麗なのだから
この学院では目立つのだよ、それを良く知っておくことだ、と前も言っただろう
まあ、それでこそ僕の傑作、Aであるといえるのだが」
急に機嫌が良さそうに笑った宗が、立ち上がり、頭に触れる。
縮こまるようにして頭を下げると、
何かピンのようなものがつけられた。
「…宗、これ…」
『似合ってるわよ、Aちゃん♪』
「貰っていきたまえ
僕からの餞別なのだよ」
ようやく目があった瞳が、細められる。
そして何故か、頭を撫でられた。
ただ、髪型を崩さないよう、静かに。
「シナリオに拘りすぎて、孤独になってもいけないのだよ
僕の可愛いA」
最後にぽつり、呟いた。
「困ったときは来るといい
君は僕の可愛い人形だからね」
それからは、そこを出るまで
一言も、言葉を交わさなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 245人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
