【花宮真が誘拐されました。】

誘拐：32 ページ39

『……んで』





「……あ？」







Aが低い声で何かを呟いた。
俺に話しかけると言うよりは、独り言のようにぼそぼそと口を動かす。



『なんで…………、なんで避けるの。
なんで避けられるのよ。

あたしはあんたを痛めつける為に……あたしと同じ痛みを味合わせるためだけに、ここまでやってるのに、

あたしがあんたなんかに勝てないはずないのにッ、いつだって殺せるのに……ッ!!』




大きく肩で息をしながら、Aは苦しげに言葉を吐く。









「それは、」









Aの探す答えを、俺は知っている。


"何故Aは血だらけになってまで花宮真を殺せないのか？"

答えは至ってシンプルだ。



"Aが―――を持っていないから。"



たったそれだけのことなんだ。本当はお前も
わかってんだろ？




「……いや、何でもねぇよ。」




でもそれはお前自身が気付かないと意味がねぇんだよ。

答えはここにあるが、お前が気付くべき点はそこじゃない。


だから俺は、お前の求める答えを、教えない。






「その代わり、聞けよ。



お前、俺が何故"悪童"って呼ばれるか、知ってるか？」



Aが眉間に皺を寄せる。まだ俺の話に反応するだけの理性はあるようだ。




『そのくらい、知ってるわよ。

周到に姑息で卑怯な作戦たてて、蜘蛛みたいにじわじわラフプレーとかして追い詰めてくプレースタイルで、』


「違ぇよ。俺が聞いてんのは、俺が"悪童"と呼ばれることが出来る所以だよ。」



『……は、ぁ？』




訳が分からないという顔のA。
俺は気にせず続ける。





「考えてもみろよ。

技術や力で劣るが頭は働く奴。ほとんど考えないで運動神経や勘だけで動ける奴。
そんな奴らはざらにいる。

だけど、頭が良いだけ、運動神経が良いだけのプレイヤーなんか、活躍は出来ても有名にはならねぇだろ。
凡人と比べて、少しだけ頭が使えて少しだけ運動神経が良い奴だって、「へぇ、凄いね」ってこの一言で終わりなんだぜ。




じゃあ、俺はなんだ？


確かに人より頭は働くかも知れない。人より技術はあるかも知れない。でもそれだけじゃ足りねぇだろ。

体格で勝るわけでもない俺は、何故"悪童"まで上り詰めた？

俺の何が、"悪童"まで俺を押し上げたんだ？」

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