小さな箱。3 ページ4
*
入学式が終わり、オレは慌てて体育館の外に飛び出した。
何せ、今朝のあの子の名前が分かったのだ。これで引き止められる。だったら、待っていた方が賢明だ。
ついでに、入学式が終われば各部活の勧誘合戦が行われるらしいけど、オレはバスケ推薦だし関係がない。
そう思って待っていたけど、入学式が始まる前のように、あの子は簡単に人混みに紛れてしまう。
見つけられないものかと、「バレー部どう!?」「登山部部員募集中〜!」と叫ぶ先輩らしき人達を「オレバスケ推薦何で」と断りつつ、どうにか背伸びをして探していると、人混みを抜けた校門の辺りに、あの子を見つけた。
あの子だ、首席の、羽屋さん。
オレはその姿を追うように人の波を掻き分けてどうにか進む。
ようやくたどり着いた校門で、オレは深呼吸をしてから「羽屋さん」と声をかけようとして___
ほぼ同時に、「A〜!」と彼女の名前呼ぶ声が前から聞こえ、オレの声はすぐに埋もれて彼女には届かなかった。
明るそうな、誰にでも好かれそうなタイプの、黒髪の青年。
多分、同い年とかだと思う。制服が真新しいし、確かアレは、緑間っちが進んだ東京の「秀徳高校」の制服のはず。
そんなことを思っていると、その青年の切れ長の目が、視界にオレを掠めてクスリと笑ったような気さえして、オレはその場に思わず立ち尽くす。
そんな青年に気づいていないのか、羽屋さんはその青年と話し始めた。
「A、待った?」
「ううん、全然?むしろ早いよ」
「少しくらい待ったんじゃね?人溢れ返ってっし?」
「あー、あはは……いやでも、本当にそんなに待ってないよ。私もさっきまで友達と話してて」
「ふーん?……で?バスケ部に決めてんの?」
「部活?……強制じゃないし、今は保留かな。海常来たのも、秀徳落ちたからだしね……」
苦笑気味の彼女に、青年は続ける。
「だから勉強教えるかーっであんだけ聞いたじゃん。俺もお前と同じ学校通いたかったってのに」
「ごめんって、ちゃんと試合の応援は行くから」
そんな夫婦漫才の如くテンポのいい会話の末、「ほら行こうぜ」と差し出された手を取った彼女は、その青年と校門を出て駆けて行く。
オレは彼女を呼ぶことさえ出来ないまま、去って行く後ろ姿を見送るしか出来なかった。
*
63人がお気に入り
「アニメ」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
西谷彩香(プロフ) - kirakirahikaru0さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!元々4年前に書き上げた作品でしたが、未だこうして誰かに見て貰えるというのはありがたいです。本当にありがとうございました! (2019年6月20日 5時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
kirakirahikaru0(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます!!最後はうれしくて泣いてしまいました。 (2019年6月20日 1時) (レス) id: 094bc50104 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ミリイ(灰崎信者)さん» コメントありがとうございます!この作品のリメイク更新も進んでいないので、終わり次第考えたいと思います。ご意見ありがとうございました! (2019年4月27日 19時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
ミリイ(灰崎信者)(プロフ) - 祥吾様の小説も書いて欲しいです (2019年4月27日 17時) (レス) id: 99fc6b4eef (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - イチゴ・オーレさん» ありがどうございます!これからもよろしくお願いします!良ければ、他作品もご覧下さい! (2015年10月18日 11時) (レス) id: b540071b0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時:2015年9月26日 22時