【文スト】【文豪ストレイドッグス】短編集【中原中也詰め】其の6

記憶の雨【パピルス様リクエスト：「記憶の楔」続編】 ページ33

雨が降っている。
雨が、ざあざあと降っている。

その音さえ、この部屋には這入って来ない。

「流華」

温もりを留める彼女を抱き締める。
けれど。その体は微動だにしなかった。

「流華」

かさつく唇に、口付けても吐息は無い。
胸に耳を寄せても、鼓動は聞こえない。

「嗚呼―――」

己の声さえ聞こえていなかった。
永く尾を引く慟哭さえ静寂だった。

今。
一番愛おしい音が止んだのだ。
彼女は、死んで仕舞ったのだ。
此れ以上何を聞く必要があるだろう。

もう、何も無い。

「流華」

もう一度、唇を合わせる。

「…おやすみ」

壊された彼女は苦しみ抜いた。
やっと、魂に平穏が訪れたのだ。


何度も唇を落として。
中也は眼を閉じる。

「御免な、何もしてやれなくて」

そっと。流華の髪を梳く。
艶を失った其れが指に絡む感触さえ哀しい。

脳裏に駆け抜けていく。

彼女と出逢った時。
彼女が、笑った時。
好きだと云った時。

まるで走馬燈だ。

「すぐに、逝くから」

記憶にある≪中也≫を求めて叫ぶ彼女を、殺す事さえ出来なかったけれど。
せめて。この約束だけは守ってやりたい。

死してなお、彼女が中也を認識できないとしても。

「死が二人を分かっても…ずっと一緒だ」

最期一度。
彼女の躯に口づけを。

中也は愛用のナイフを、自らの肋骨の隙間に押し込んだ。

※

連絡が取れない。
心配して部屋を訪ねた部下によって二人の遺体は発見された。

まるで抱き合うような死に様だったという。

流華と中也は同じ棺に入れられた。
葬儀はポートマフィアが執り行った。

そして想い合った恋人達は同じ墓に葬られた。

全て、中也の遺書によって、彼の望むまま行われた。

「莫迦め」

紅葉は二人の名の刻まれた墓石を撫でる。

葬儀の日も、二人の死を悼むようにずっと…雨が降っていた。

――――

リクエストを頂きました。
パピルス様誠にありがとうございます！
このようなモノでよろしかったでしょうか？
可能であれば感想をお願いいたします。

2016年11月22日ちょこ

打開策【黒鶫文佳様リクエスト：紅葉のツンデレ妹と素直じゃない中也】→←めたもるふぉーぜ未満【桜様リクエスト：猫耳中也をいじり倒す夢主】

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