【文豪ストレイドッグス】蜂の在り処 4章

159針 ページ19

No side



「やれやれ、あんたのところの名探偵は相変わらず人遣いが荒いな」




『すいません、ご迷惑をお掛けしてます』




タイミングを待つ特殊部隊の後ろで、Aは困り笑顔で頬を掻く。



その横では刑事の箕浦が呆れた様子で溜息を吐いた。





『それで乱歩さんの状況は？ポオさん』



「乱歩君の云った通り、小栗虫太郎という人物がこの事件の犯人のようである」




と、そこへ道路の真ん中で突然一台の車が止まった。




『あれだ』




Aの言葉と共に、待機していた特殊部隊が一斉に道路を塞ぐ。





「乱歩君！」



携帯を片手に車に近寄っていくポオと、車から降りてくる乱歩。




「世紀の大犯罪者が他愛ない幕切れだ。

同房にしてやるから反省会でもしろ。


逮捕する」



箕浦が車の中をのぞき込みながら、手錠を差し出した。



「やってみろ」



「！」



しかし運転席にいた男は慌てる様子もなく、上着の内側から何かを取り出した。




「私は正式なロシア連邦外交職員であり外交団ナンバーである。


この車内では刑事裁判権が免除される。


貴君等は我々を拘禁出来ない」




「く……！」


『(そう来たか……)』



Aは微かに目を細めて運転手の男を見る。




「しかし殺人未遂の現行犯なら外交官特権剥奪が発動出来る筈！」



ポオが叫ぶと、男は銃から弾倉を取り出した。




「弾は入ってない。

君たちの云う「不能犯」だ。

この銃の所持も正式に許可された物で違法性は無い」





『乱歩さん……これって』



「あぁ、ドストエフスキーの入れ知恵だな」



忌々しそうに眉を寄せるAの横で、乱歩は車の窓に顔を近づけた。




「…行っていいよ」



「おい！？」




「ではな乱歩君、留置所の同僚に宜しく」



窓が閉まりきる寸前で虫太郎がそんな言葉を残し、車は去っていった。




乱歩は鋭い目線でその車を睨んでいる。




『…乱歩さん…』



「大丈夫だ、手は打ってある」





Aが乱歩に何か云うよりも早く、乱歩が言葉を遮った。





『手？』




乱歩はAの質問に答えずに、携帯を耳に押し当てた。




「虫太郎君、君の勝ちだ。


最初から判っていた、一般人は異能には勝てない。


それでも僕は君を倒す。


何故なら──仲間が僕を無敵だと思っているから」







Aは少しだけ目を開いて、軽く微笑んだ。




『(矢張り乱歩さんはこうでなきゃ)』





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