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Aは止められた理由も分からずキョトンとした顔で虎杖を見つめる。
そんな目線を気にも留めず、虎杖は焦ったようにまくし立てた。
「なんでナイフを逆手に持つの!?」
「でもいつもナイフはこう持ってるよ」
「それ戦闘用ナイフでしょ!!今使うのはフルーツナイフ!!料理用なの!!」
今にも人でも刺し殺しそうなナイフの持ち方をするAから咄嗟に虎杖はナイフを取り上げた。
なるほど、まずはナイフの持ち方から教えなければいけないというわけか。
「想像以上に壊滅的ね」
「ああ、意外だな。なんでもそつなくこなしそうなのに」
普段は頼れる先輩らしく振る舞っているAだが、意外に欠点もあるというものだ。
生活能力の水準が比較的高い呪術師が多い中で、Aのように全く家事のできない術師というのは珍しい。
それも先刻Aが言っていたように実家が由緒正しい家柄であることが大きいのだろう。
彼女曰く、家事と言った花嫁修業なんかよりも案山子の隻としての修行をひたすら優先されたそうだ。
なんとも実力主義の呪術界らしい。
「料理用のナイフを持つ時はこう…んで、ナイフは動かさずにリンゴの方を回すの。指はこう添えて、抑えて」
Aのあまりの不器用さを見かねた虎杖が、彼女の背後に回って両手を添えながら説明する。
今の彼らは人並みの男女の距離感とは言い難い。
虎杖はAを後ろから抱き込むように、彼女の両手をしっかりを掴んでいる。
一言で言うならばバックハグだ。
「…どう思う?」
「…無意識だろ、虎杖の事だし」
「意図してないとしたら相当な馬鹿よ」
その光景を無言で見ていた伏黒と釘崎は呆れたようにその状況を指摘する。
なにより虎杖が救えないのは、Aがその状況を一抹も意識していないということだ。
Aも馬鹿ではないが、閉鎖的な呪術師の村で育った彼女が一般的な感性を持ち合わせていないことは目に見えている。
距離が近いこと自体には気づいてはいるだろうが、それを全く指摘しないどころか気にも留めないというのは、彼女が男女の適切な距離感を把握していない所為だろう。
それもこれも恐らくは狗巻の日頃の所業が大きな要因だろうなと伏黒は眉を顰める。
加えてあの担任教師、五条も他人との距離をあまり考えない人種なためか、彼女の周りにはまともなパーソナルスペースを持った人間がいない。
呪術師の家系はそういう人間ばかりのなのだろうか。
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作者名:にる | 作成日時:2021年4月1日 14時