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「えっと…先輩、炒飯にジャガイモは入ってないよ…?」
「…入れないの?」
「うん」
キッチンに暫くの静寂が訪れる。
4人の間に無言が続く中、意を決して口を開いたのは釘崎だった。
「…Aさん、もしかして…料理できないの…?」
Aは彼らから目を逸らしたまま何も言わない。
意図せずとも肯定するような沈黙が余計に痛々しい。
もはや手遅れであることにも気づかず、言い訳をするようにAはつらつらと言葉を並べる。
「む、村にいた時は家のお手伝いさんがやってたし、高専に来てからは真希に『お前はキッチンに絶対立つな』って言われてたから…」
普段の様子とは打って変わり随分と意気消沈してしまったAを虎杖と釘崎が慰めるようにフォローする。
「だ、大丈夫だよA先輩!誰しも出来ないことの一つや二つはあるって!!な!!」
「そ、そうよそうよ!そんな気にするようなことじゃないわよ!!」
そのフォローが逆に虚しくAの心を抉っていく。
そんな哀愁漂う背を、一年生は成す術もなく見つめるしかなかった。
――――――――――――――――――――――――――
「ごちそうさまでした」
揃って手を合わせた4人の声が重なる。
結局、あの後はAがキッチンに立つことはなく、虎杖が4人分の炒飯とスープ、サラダを作ったことで4人は昼食を無事に終えた。
虎杖の美味しい昼食によりAの機嫌はすっかり元の調子に落ち着いていた。
ホクホクと満足そうな顔をして食後のお茶を啜っているAに、真っ赤に熟れたリンゴを片手に虎杖が声をかける。
「先輩さ、もしかして包丁とかもあんま使ったことない?」
虎杖は一番初めに目にした彼女が戦闘用ナイフを逆手に振り上げている構図だったことを思い出したのだ。
案の定、Aは包丁もろくに握ったことがなく、虎杖の言葉を肯定するように頷いて見せた。
「じゃあリンゴでも切ってみる?俺横で見てるからさ」
かくして、虎杖によるAへの料理指南が始まった。
キッチンに立つ虎杖とA。
食堂からひょっこり顔を出す伏黒と釘崎はその光景を息を呑んで見つめた。
「じゃあまずリンゴを利き手と逆の手で持って、包丁を……ストップ!先輩ちょっと待って!!」
その光景に虎杖は咄嗟にAを制止する。
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作者名：にる | 作成日時：2021年4月1日 14時
