第参幕 彼の理解できない話 ページ4
鬼道side
今までで、あんなに冷たい彼奴は見たことがない。なぜ、どうして。考えたって答えは出てこない。
「今日は、解散して休まないか」
声が震えないように努めたが、情けなくも多少震えてしまった。これ以上、彼らを不安にさせるわけにはいかないのに。
「そう、だな」
「ああ。少し、一人で考えたい」
一人が声を上げ、それに続くように皆が校門に足を向ける。ぐるぐる、ぐるぐる、頭の中で渦を巻くのはあの言葉。
「「わたしは君たちを知らない」」
「お前は……」
「くふ、やっぱり最後だった。話がしたい。着いてきな」
ぐい、と、何処からそんな力が出ているのか、俺を引っ張り歩いていくA。ほんのり赤みの強くなったように見える髪に、少し変わった話し方。
「どこへ行くんだ」
「誰にも話を聞かれない場所」
「あてはあるのか」
「まあ、公園の多目的トイレとか？」
「はぁ……家に来い、案内してやる」
呆れた。無鉄砲なところも、少しは考えているところも、Aとは似ていない。あまりにもおかしい。
移動中は、終始無言だった。ボロボロでジャージの中学生が二人。いかにも怪しい。遠巻きにされたが、むしろ好都合だった。
「お帰りなさいませ、有人さま」
「へぇ、お坊ちゃまなんだ？」
「すまない、袴田。この部屋にしばらく近づかないでもらえないか」
「おやおや……畏まりました」
「ありがとう」
暫定Aの手を掴み、応接室に放り込む。Aはギョッとした顔でこちらを見ているが、倒れないのだから大したものだ。
「お前は誰だ」
扉を閉めて早々に話を切り出す。きょとり、と首を傾げた眼前の女を睨めつける。
「とぼけても無駄だ」
「ふ〜ん……やるな、お前。安心した」
カラカラと豪快に笑った女は、矢張りAではないらしい。
「ま、面倒くさいけど〜、説明してやるよ」
第一に、自分達は体を共有する別人であること。第二に、俺たちがAと呼ぶ人格は記憶を残し分裂してしまったこと。つまり、Aは分かたれ、もうひとつに戻ることはないのだと。
「は、なんで、説明しろ」
「元々、宇生賀谷Aは、俺たちの集合体だったんだよ。んー……色んな色の光が重なって、白になった状態だって考えたらわかりやすいかもな。そっからライトが一色ずつに分けられたのが今の状態。ベースは瑠奈っていうんだけど、まだ不安定でな。そこで俺が出てきたんだ」
女の言葉は、何一つ理解できなかった。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
