非日常的な日常 ページ4
楽しみにしていても、時間はあっという間に進む。
1秒、1秒を時計の針を見て噛み締めても、1秒見た瞬間にその1秒は過ぎるし、時間を長く感じたことはなかった。
しかし、勉強の時間は夜遅くだったため待つには少し心細かった。
コンコン、と無機質に扉を叩く音が部屋に響き渡り、私の心を喜の感情で満たす。
「こんばんわ、Aちゃん。」
そう優しい声で囁く様に言いながら部屋に入ってきたのは、勉強の係りの研究員の男性だった。
彼が持っている明かりのおかげで部屋がオレンジ色に淡く照らされる。柔らかい黒い髪と、気怠げな印象を感じさせる目がはっきりと見えた。
「こんばんわ。」
私は、そう返した。
「相変わらず、つまらなさそうな顔をしているね。」
私は「別に、つまらなくないのにな」と心の中で呟いた。
この頃の私は会話を続ける方法を知らなかった。
「…さて、じゃじゃーん。今日は、この本を読むからね。」
と、出したのは厚めの本だった。
そして、かなりボロボロだった。
本の世界にのめり込むくらい、聞き入った。
とても奇妙な本だった。
本が、一通り読み終わると研究員の人が急に立ち上がり、「少し待っててね。」とは言い残して、部屋を出た。
しばらくすると、車椅子に本を乗せ、帰ってきた。
その車椅子は私がよく使っていた物で、本も以前読んだことがある本ばかりだった。
そして、車椅子を傾け、本を乱雑に落とす。
本は水を含ませたタオルの様な音をたてて落ちる。
さらに言えば、独特の刺激臭を放っていた。
「なんの匂い?」
そう聞いても彼は答えることなく、また部屋を出て、そして本をまた持ってきた。同じ匂いがする本を、たくさん。
よく見ると、彼は手袋をしてマスクもしていた。刺激臭と本に気を取られて気がつかなかった。
「これで全部かな。」
「これ、何?」
「逃げるよ。」
そう言った彼の目はいつもの気怠げなとろんとした目ではなく、はっきりとパキッとした目だった。
私はその代わり様と「逃げる」という言葉に理解が追いつかず口をぽかんと開けたまま彼を見つめた。
そんな彼はポケットからマッチを取り出し、
「今からこれで火をつける。
騒ぎを伝えに俺は上司の元へ行く。その間、君はこの本から離れた場所にいて待ってて欲しい。
必ず、迎えに来るから。
わかった?」
と、私の肩を掴み彼は私の目をじっと見た。
私は状況が理解できないが、やることは分かったので頷いた。
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作者名:hitoesasami | 作成日時:2020年3月8日 10時