ブライト・メイルの回顧録《5》 ページ21
「……笑いません?」
「さあ、きいてみなければわかりません」
何を言うかと思えば、笑われるような内容なのか。それなら思い切り笑い飛ばしてやろうと、彼女の次の言葉を待つ。……だけれそこで、彼女の頰がほんのり赤くなっているのに気がついた。
「前に……奏汰さんがこの噴水にいるのを見かけて、とっても自由で楽しそうだったから、この人と話してみたくなって、それで、」
ーー予想しなかった返答に、面食らった。彼女に自分がそんな風に見えていたことに驚いたのだ。だって彼女はアイドルや神さまの肩書きなどではない、ただの自分に憧れてここまで追いかけてきたというのだから。
そして何より、今まであっけらかんとして笑顔を浮かべていた彼女が、照れたように耳まで赤くしている姿にこちらまで動揺した。
「……って、なんか恥ずかしいですね!もう、やっぱり忘れてください!」
さらに顔を蒸気させて叫ぶ彼女に、くるりと背を向けた。えっ、と声をあげる彼女の声がその背中にぶつかるけれど、気にしていないふりをする。
ーーーーいわばそのとき、ぼくは相手のペースに乗せられているのが気に食わなかっただけなのだ。まるで抗えない波に飲み込まれ、そのまま流されてしまうような感覚。だって彼女は、今まで見てきたどんな人とも違ったのだ。彼女は太陽のような人だった。かつて、自分に手を差し伸べたヒーローもまさしく太陽であったけれど、彼とは似て異なる存在。だからいっそう、心が揺さぶられた。
「な、なんで反対側向いたんですか?」
「うるさいです」
……なんであなたがあかくなってるんですか。
そんな顔をされたら、こちらもつられてしまうではないか。
「……こっちみないでください」
だから、自分の頰が熱いのも彼女のせいだ。彼女が赤くなるから、ついつられてしまっただけだ。ーーああ、もう。こんな子に調子を狂わせられるだなんて!
なんでですか、と聞いてくる彼女から逃げていると、濡れた噴水の縁で手を滑らせそのまま落下してしまう。わっ、と驚いた声が頭上から聞こえ、水の膜の向こうからゆらゆらと白い光が揺らめくのが見えた。冷たい水が心地よい。
「大丈夫ですか!?」
と、水の向こうから手が差し伸べられる。本当はその手を掴まなくとも起き上がれるけれど、むしょうに彼女を驚かせたくなってその手を掴んでやった。
……認めたくないけれど、もうこればかりはぼくの負けだ。
ーーぼくを呼んでいた光は、確かにぼくに届いた。
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい! 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました! (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください! (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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