162.夕日 ページ33
.
「…ごめん、望月。あの時は、ごめん」
『…………』
「焦った、俺。…すげー焦った。
俺の中でほぼ完璧な礼ちゃんが、あんなにぼろぼろになってるの初めて見て、そんでもって、俺がこの人をなんとかしてあげなきゃって、周り見えなくなってた」
一也がこうやって話してくれるのに、嬉しい自分がいる。
「望月は、強いじゃん。…否定されても、馬鹿にされても、絶対折れないじゃん。
それに、周りとやってくのも、なんだかんだ上手いだろ?
だから、大丈夫だろうなって思った。
俺がいなきゃいけないのは、尽くさなきゃいけないのは、違う人なんじゃないかなって、変な使命感働いた」
『………………』
「なんにせよ、俺の判断で、お前のこと傷つけたのは事実だよな。…ごめんな、望月」
『………………』
なんでこのひとの言葉は、
こんなに、
『………ほんとだよー!もー!
天才捕手め!ほんっとあの時私落ちたんだからー!』
そう言ってへらりと笑った。
一也はほんの少し私を見つめると、なんでもわかってるみたく笑って、それきり何も言わなくなった。
二人で店を出て、分かれ道で向かい合った。
一也は、笑ってた。
「じゃーな、望月」
『…バイバイ』
あっさりと別れた。それは、一也があっさりしているから、
それでもって、私が泣きそうなことに、気づいていたから。
『………ばいばい、一也』
こみ上げてきたものは止まらなくて、
誰もいない分かれ道に、くぐもった声が響いて、
ぽたりと地面に涙が落ちた。
『………………好きだったなぁ、』
中学校から、わき目も振らずに追いかけ続けた好きなひと。
奇跡みたいに付き合えた。
たった数ヶ月、されど数ヶ月。
クリスマスのイルミネーションの下も、
2人きりの初詣も、
なーんにもできなかった、
さっぱりとしたお付き合いだった。
片思いの方がずっとずっと長かった、与えるばっかりだった私の初恋。
それでも、私の与えたぶんなんかじゃ足りないくらい、
たくさんのものをもらった初恋。
私は満足したんだよ、もう。
あふれる涙を拭うと、帰り道へと向き直って、落ちてきた夕日に向かって歩き出した。
ばいばい。
ばいばい、
私の、初恋の、ひと。
.
392人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「アニメ」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:すた | 作者ホームページ:
作成日時:2016年2月16日 17時