貴方になら、/2 ページ48
「…………は?」
絶対零度を思わせる声音と共に、ニナが振り返る。それに含まれているのは疑問と軽蔑、そしてひとつまみの怒り。「頭おかしいんじゃない?」……間違いではないので、その言葉を否定できない。
「ありがとう、なんて言われる筋合いはないわ。それとも、馬鹿にしてるの?」
違うと言いたかったけど、上手く言葉にならなかった。代わりに首がもげそうなほど横に振ると、彼女はさらに顔に訝しげな色を広げる。あああ、そろそろ覚悟を決めなくちゃ。
私は一度唾を飲み込み、それから意を決して口を開いた。
「私、ニナが皆のライブを台無しにしようとしたこととか、皆の気持ちを利用して私を陥れようとしたこととかは許せないよ。でもね、一つだけ感謝してることがあるんだ」
それはね、と私は間髪入れずに言う。
「皆のプロデュースを、最後までちゃんとしてくれたこと。皆のことが嫌いなら、やるふりして手を抜いてもおかしくないのに、ニナはしっかり仕事をこなしてくれてた。
私が作戦でプロデュースをサボっちゃってたときも、仕事をしてくれたのはあんず先輩とニナだよね。……酷いことをいっぱい言ってたけど、本当は少しは皆のことが好きだったんだよね?」
だから、それだけはありがとうと伝えたかった。いっぱい酷いことをされたけれど、きっとニナは根からの悪い人じゃないはずだ。
そう信じて言った私を、ニナはただじっと見ていた。……それから、大きなため息をつく。
「……ほんっとうに、脳内お花畑の馬鹿ね」
「…………お花畑??」
何を言われるかと思ったら。うんざりしたようにそう言ったニナは、矢継ぎ早に続ける。
「仕事をしたのは、些細なことで疑われてボロを出したくないから。私、作戦には手を抜きたくないの。だから勘違いしないで、私は皆が好きだったわけじゃない。あんたの幸せな脳内で都合良く解釈しないで」
「うっ……けど、」
「でも」
と、ニナは私に背中を向けた。それから、私に届くギリギリの声量で一言呟く。
「貴方に負けるのなら、仕方ないのかもね」
____最後、ニナが笑った気がした。……とは言え、私に背を向けているから定かではないけれど。
「ま、せいぜい頑張れば?」
小さく片手を振り、彼女は今度こそ校門を出た。角を曲がり、すぐにニナの姿は消える。後には、しんとした静寂だけが残された。
「……さようなら、ニナ」
こうして、私の長い戦いは終わった。
2090人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
べベンべエエェェ - また戻ってきました!この作品がお気に入りになってどの小説の設定も星川、というのを使わせて読ませてもらってます!ありがとうございます! (2022年6月9日 23時) (レス) @page29 id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
ベベンべエエェェ - またニナが足を洗って帰って来てほしいかなと思います。続編が出来たらとっっっっぅても嬉しいです (2021年8月4日 21時) (レス) id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
CloveR(プロフ) - 面白すぎて2日で読み終わりました……。(続き気になりすぎて2日とも5:00くらいまで寝れなかった)寝る前に読んだの後悔するくらいおもしろかったです…! (2021年7月29日 3時) (レス) id: f7412586d4 (このIDを非表示/違反報告)
髪様 - ゆうさんと同意見です,完璧ですわあ、、、、 (2020年5月8日 11時) (レス) id: a311e75dfe (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - なんだろう、なんて言えばいいかわかんないんですけど...完璧な小説でした (2020年4月25日 18時) (レス) id: de93f0d8c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ