21滴 ページ22
.
池の縁に座りながら私は夜空にぽっかりと浮かぶ満月を見上げ自分が消えるのを待っていた。
もう既に私の手は薄くなっていた。
そんな私を照らすように夜空に浮かぶ満月と煌めく星屑たちに『綺麗……』と言葉を漏らす。
こんなにも綺麗な夜空の下で私は消えられるのかぁ。ちょっと嬉しいな、なんてね。
別に思い残すことなんてない。
そう言ってしまえば嘘にはなるが、これといって後悔はない。あぁでも、一つあるとするなら
『最後に、会いたかった』
あなたに、まだ一度も私の想いを言っていないから。まぁそんな願いも叶いそうにはないけど。
のんびりと消えるのを待とうじゃないか。
そう思いながら私はレオがくれた曲を鼻で歌う。すると
｢A！｣
ここには居ないはずの大好きな彼の声に私は肩を揺らした。私は声がした方に顔を向けると
『レオ……』
レオが笑顔で立っていた。
『なんでここに……』
｢作曲してたらいつの間にか夜だった！｣
レオらしい理由に私は苦笑する。
｢帰ろうとしたらAの鼻歌が聞こえてきたから寄ったんだ！｣
『そうなんだ』
私は笑いながら消えかかっている手を背中に隠していた。けれどそれに気づいていたのか
｢A、手見せて｣
いつもよりも優しい声でそう言う。そんなレオに私は少し迷いながら恐る恐ると隠していた手を見せる。するとレオは目を見開き驚いたような表情をする。そんなレオに私は一言
『もうすぐで消えちゃうんだ』
笑いながらそう言った。
そんな私を見てレオは苦しそうな表情を見せる。それが嫌で私はレオの頬を両手で包み込んだ。
『私ね、レオのおかげで毎日が楽しかったよ』
レオが私の声が綺麗と笑ってくれたこと。
レオがユニットの人達のことを話してくれたこと。
そしてセナさんに会えたこと。
辛いこともあったけどレオといたから全部、全部、大切な思い出なんだ。
『だから、ありがとう。レオ』
たくさんの思い出をくれて。
私を幸せにしてくれて。
初めて私を綺麗と言って笑いかけてくれて。
『もう思い残すことはないよ』
そう笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽぽ | 作成日時：2021年1月30日 12時
