お願い ページ1
｢お願いします！｣
目の前で深々と頭を下げられているこの状況に困惑を隠せないでいた。
「えっと…」
「お願いします！俺をプロデュースして下さい！」
幸い、今は放課後。
廊下には誰もいない。
この状況を注目されずに済むことだけが今の救いだ。
(申し訳ないけど、ここは取り敢えず保留とかにして…)
放課後のプロデュースの時間が迫り来るのを腕時計で確認しながら、目の前の彼にどう声をかけようかと考える。
「と、取り敢えず、顔を上げてください」
目の前の彼に顔を上げるよう促すも、その彼は首を横に振る。
「お願いします！あんずさん！」
「俺、どうしても輝きたいんです！」
必死に懇願する彼に頭を悩ませる。
今、手持ちの仕事はどれくらいあっただろうか。と頭で考えるも、焦りからか上手く考えられない。
「！」
上がることの無い頭から少し視線を逸らして気づく。
ぎゅっと握られた拳は、目視でも分かるぐらい震えていた。
脆くて弱い。
それが、彼に対する2個目の印象だった。
「いいですよ」
気付いたらそう口走っていた。
捨てられた赤ちゃん猫を道の端で見つけ、放っておくことも出来なかった時の心情によく似ている。
「本当ですか！？」
バッと上げられた顔は期待と不安に満ち溢れていた。
ゆらゆらと揺れる瞳は青くて、海を連想させた。
(綺麗な顔…)
よく、人形のように…という表現があるがそれとは違っていた。
『人間として綺麗』
それ以外の表し方しか思いつかなかった。
じっと見つめられた瞳に暫く目が逸らせなかった。
続く
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作者名：no name | 作成日時：2021年6月4日 17時
