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「……だぁれ？」
月光を背に背負った車窓の外に見える人物の表情は、Aにはよく分からない。
それでもどこか不気味な感じがして、Aは咄嗟に手に握って居た携帯を持ち直し、母に言われたボタンを震える指先で押す。
が、小さな手には些か扱いにくく、「あっ」とAの小さな声と共に、携帯は発信したままポトリと真下へ落ちて見えなくなった。
Aがそのことに気を取られているうちに、ゆっくりと車の扉が開かれる。
「やぁ、今晩は。」
ゆったりとした優しげな声は、緊張で強張って居たAにほんの少しだけの安心感を与えた。
「……だぁれ？」
「んーー？そうだなぁ、君のお父さんとお母さんのお友達……かな？」
そう言って笑った口元だけを、Aは記憶している。
何故かこの辺りから、絶対的な記憶力を持つAの記憶は途切れ途切れなのだ。
両親が戻らず心細かった幼いAが、優しく語りかけてくれる彼を信用するまでそう時間はかからなかった。
そしてAは、彼の提案でその手を引かれて自ら車外へ踏み出した。
潮風と暗い漆黒の海、遠くに見える街の灯り、そして淡く光り輝く月。
そんな中、鼻歌混じりでご機嫌な男と手を繋ぎ、Aは彼が案内してくれると言った両親の元へと自分を鼓舞する為に抱えてきたイルカのぬいぐるみをぎゅっと片腕に抱えて歩く。
暫く歩いたその先で、Aは動揺しているシズカと、その脇で倒れ、荒い息を吐くマサを見つけた。
「おとーさん？おかーさん？」
異常を察したAが、戸惑いながらも二人の元へ駆け出そうとするも、それは叶わなかった。
ここまで共に手を繋いできた男がそれを許さなかったからだ。
固く繋がれた手は、Aがいくら振り解こうとしても解かれない。
「なんで！？離してっ！ねぇ！お兄ちゃん！おに……いちゃん？」
解かれない手に焦ったAが見上げた男の口元は、不気味な笑みを浮かべていた。
「ふふっ……ははっ、はははは！ねぇ！マサさん！Aちゃんたら、僕のこと、お兄ちゃんだって！」
「やめ、ろ……そのこ、は、かんけ……な」
「マサ！喋らないで！傷が！」
「あー確かに、その傷は辛いよね。うんうん、じゃあさ、丁度そこに濡れたハンカチあるよね？それでちょっとさ、マサさんの息止めて楽にしてあげてよ。ね、シズカさん？」
明るく言い放つ男に対し、シズカは一瞬何を言われたか分からないという表情を浮かべ、そして青ざめた。
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テン(プロフ) - 星猫さん» 星猫さん嬉しいコメントありがとうございます(*^^*)更新が停滞していて申し訳ありません。今後も楽しんで貰えると光栄です♪ (2021年9月27日 21時) (
レス) id: 7837fbad55 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 初めまして！とっても素敵ですね！高評価しました！ (2021年9月10日 23時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：テン | 作成日時：2021年4月20日 0時
