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まだぼんやりとした意識の中で、シズカはAに真剣な面持ちを向けた。
「いい？A、車から絶対に出ないで！お母さんが戻ってこない時は、このボタンを押して！」
そういってAの手に自身の携帯を握らせたシズカに驚いてAの意識は一気に覚醒した。
「ん……おかーさん？何かあったの？」
「……分からない。でも、大丈夫。Aの事は、お父さんとお母さんが絶対に守るからね。」
強くそう言いながら笑ったシズカの顔に滲む緊張感が、Aに伝わり、途端に不安になる。
「おかーさん、どこいくの？」
「ちょっと、お父さんを見て来るね。」
「Aも…いく。」
今日はワガママを聞いてもらっているから、きっと許されると呟いてみたが、シズカは静かに首を横に振る。
「……A、ごめんね、ここに居て？」
「やだー！Aもいくっ！」
一人で、暗闇に取り残される事が嫌なAはあしをバタつかせたが、一瞬困惑の表情を浮かべたシズカは、グッと拳に力を入れた。
「A！！ここに居なさい！！」
今まで聞いた事が無い程のシズカの鋭い声に、驚いたAはピタッと動きを止めてシズカの顔を見上げた。
この時のシズカの焦燥感に駆られた、緊迫した表情は、幼いAに衝撃を与えたが、それがAの安全確保の為だなんて事は、この時には気づかなかった。
「必ず、戻ってくるから。ごめんね、待っててね。」
「っ！！おかーさん！！」
Aの声をまともに聞かぬまま、申し訳なさそうに微笑んだシズカは、車のドアを閉めて、暗闇の中へと駆けていった。
シンと静まり返る車内で、時折聞こえてくる不気味な夜の海の音に、Aはシズカに渡された携帯を小さな両手でぎゅっと握りしめた。
体感的にはAが車内に取り残されてから相当な時間が経ったとAはこの時はそう感じて居たのだが、実際のところは１０分弱ではないかと後々の捜査資料で判っている。
雲の隙間に隠れて居た月が姿を見せた頃、コンコンと、優しくAの横の車窓を叩く音がした。
二人が帰ってきた！
と、喜びでパッと顔を上げたAの前に現れた人物
それこそが
スティグマ事件の被疑者当人だとは気が付かずに―
この時のAには分からなかった。
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テン(プロフ) - 星猫さん» 星猫さん嬉しいコメントありがとうございます(*^^*)更新が停滞していて申し訳ありません。今後も楽しんで貰えると光栄です♪ (2021年9月27日 21時) (
レス) id: 7837fbad55 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 初めまして！とっても素敵ですね！高評価しました！ (2021年9月10日 23時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：テン | 作成日時：2021年4月20日 0時
