第80話「姉の様な」アグラソル ページ33
「……どうかしたのかい、中島さん?」
「あ、いえ……別に何でもないです。……あ、後敦で良いですよ、ソルさん。」
「そうなのかい?なら良いけど……じゃあ、敦さんで。」
じっとこちらを見られていた気がしてそう問いかけるが、誤魔化されたので僕は報告書を作成しているいろはの背中を見る事にする。
「……いろはちゃんは、呼び捨て……なんですね。」
「……?嗚呼、そうだね。いろはは姉弟の様な存在だから……特に気にしたこと無かったけど、確かに僕が呼び捨てにするのは彼女だけだね。」
敦さんの質問の意図が判らず、僕は少し疑問に思いながらも彼の言葉を頷き、肯定する。
「……姉弟、ですか?」
「嗚呼。まぁ深い意味はないよ。……所で敦さん。」
「……?」
いつもの様に微笑みながら、不思議そうな表情をする敦さんに僕は提案する。
「敦さんの方が年上なんだから、敬語じゃなくて良いんだよ?」
それに先輩だし、と笑いかけると、敦さんは目を見開いた。
……ん?
彼のその仕草の意図を掴めず、僕は首を傾げる。
「と、年下だったんですか!?落ち着いてて大人っぽいし、完全に同い年か年上だと思ってました……!」
「……え。」
「い、いや、その……ごめんなさい……じゃなくて、ごめんね?」
申し訳なさそうにそう謝る敦さんに、僕は仕方ないので苦笑いして答える。
「……否、気にしなくて大丈夫だよ。大人っぽいって褒め言葉だしね。」
「何の話?私も入れて?」
書き終わったらしいいろはは、くるりと椅子を回してニコニコと話に入ろうとする。
僕たちは顔を見合わせ、笑って答えた。
「「……秘密!」」
「えぇ!もう……。でも、仲良くなれたみたいで良かった。」
頬を膨らませて拗ねたかと思うと、いろはは優しく僕らに笑いかけてくる。
「……嗚呼、もう友人の一人さ。ね?敦さん?」
「……!うん!」
幸せそうに笑った敦さんに、いろはは今まで見たことのない優しくて幸せそうな笑顔で応える。
似たような顔を太宰さんに見せる事は有るが……これが本物なのだと、僕は思考なんかじゃなく感覚で理解する。
僕はアグラソル。恩人であるいろはを実の姉の様に慕う、元マフィアの便利屋で今は武装探偵社の一員。
恩人で有り姉の様な存在であるいろはの幸せを願うのは当たり前だろう。
そしてようやく、(本人達は全く気付いていないようだが)そのチャンスが訪れたのだ。
この好機……この僕が、逃す筈がない。
番外編「イニシャル・G(前編)」→←第79話「ソルと探偵社員・壱」夢主
8人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:業猫 | 作成日時:2019年6月13日 11時