番外編「イニシャル・G(前編)」 ページ34
「ふんふんふん……♪」
暁いろはは、鼻歌を歌いながら掃除機を掛けていた。
……その時、カサカサと茶色い物体が物陰から出てくる。
「……え?」
その物体は、彼女の目の前で止まった。
やぁ、とでも云う様にいろはをじっと見つめる“それ”は茶色く、艶やかに光る世界の嫌われ者。
どれだけ綺麗にしていても何処からか音も無くやってくる。
宙を飛び、あらゆる攻撃を避ける者。
……通称、Gだ。
「ひぃいいいいい!」
こうしていろはの喚きが、叫びが、悲鳴が、部屋一杯に響いたのだった。
「……だだだ、太宰さん、むッ、虫です!!茶色くてつやつやしたアレです!!」
「嗚呼、ゴキ……__」
「ちょ、云っちゃ駄目です!何云おうとしちゃってるんですか!」
「うーん……退治したらいいのかい、いろは?」
いろはは太宰の腕にがっしりと捕まりながら、まるで親の仇であるかの様に険しい表情で“それ”を睨んでいる。
「駄目です……良いですか、太宰さん。奴らは潰せば新たに生まれてくるのです。ですから焼き払うか凍死させるか、はたまた卵もろともこの世から亡き者にするか……。」
親の仇の殺害方法を考えている復讐に燃える者の表情を浮かべるいろはに、太宰は苦笑する。
「……いろは、目が怖いよ。にしても、ふむ……。……そうだ、良い事思い付いた!」
「……太宰さん、良い事って……って、あ、私の携帯!?」
「もしもーし、芥川君かい?至急、私の家に来るように。物凄く重要な任務だよ。」
電話の向こうからは、椅子から転げ落ち、咄嗟に手を吐いた場所に湯呑が有り、其れが落ち割れてしまったような途轍もない音が聞こえ、其れを目撃した芥川の妹である銀の慌てた声が聞こえてくる。
其れからワンテンポ遅れて、慌てたような……けれど何処か嬉しそうな芥川の声が聞こえてきた。
『直ぐに向かいます!』
「……太宰さん。」
「まぁまぁ、私に任せておき給え!」
にっこりと笑う太宰に、いろはは渋々といった表情で任せることにしたのだった。
番外編「イニシャル・G(中編)」→←第80話「姉の様な」アグラソル
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年6月13日 11時