「」I miss you…【MS】 (ページ9)

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そんなあるとき唐突にチャンスがやってくる。暑い夏の日、夏休みを目前に控えた頃。蝉の声を聞きながら茹だるような暑い渡り廊下を通って図書室に行った。彼の姿は、なかった。
いつもは恐らく昼休みが始まって御飯を食べたら早々に来ているようで、いるときは休憩の終わり間際に行くと読書する姿を見られた。
だから今日は居ない日だな、なんて残念に思いながら、資料に使いたかった本が禁帯出だったためにカウンター近くの壁沿いにあるコピー機を使っていた時。彼の声がした。

たまたまその日の当番が二宮君だったのがラッキーだった。翔くんは「五限をサボる」と、言った。
図書室は授業の時間は閉めてしまうからと二宮君が本の貸出を勧めたのを聞いて、僕は本を奥にある棚に戻し、彼が来るであろう通路をいそいそと進んだ。

鼓動が速くなっていく。閑散として誰かの話し声もない図書室で、僕の心臓が脈打つ音が反響しているようだった。
やがて何列目かの棚と棚との間に、彼がいた。僕は迷わず声を掛けていた。

「国語科の準備室、空いてるよ」

「え？」

彼は、突然そう言われて、何の話をされているのかわからないという風な顔をした。

「僕はいるけど、他の先生は授業があるからいない。来る？サボるのには丁度良いと思うけど」

どこで時間を潰そうとしているのか知らないけど、図書室をあてにしていたようだから他に行くところが思い付いてないかもしれないとも思って。半ば衝動的に僕は彼を自分のテリトリーに入れた。

ふたりだけの準備室。僕は自分が一人で其処にいるコマを教えて、彼は恐らく授業を受けずとも支障のない時に遊びに来た。いくつかの決まったコマの中でランダムに来ていたから。そして不規則ではあるものの定期的にサボるようになったのに成績に変動がなかったから。そういう意味でも、賢い子だった。