「」I miss you…【MS】 (ページ8)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:62,920 hit

8 ページ8

季節はいつの間にか紫陽花が鮮やかに雨を喜ぶ頃。やっと接点が出来たというのに、相変わらず図書室でたまに見掛ける事もあるというのに、未だ翔くんに声を掛ける事は出来ずにいた。

「適当に声かけちまえばいーのに」

「出来ないよ」

気紛れな二人の飲みの席で、智君は僕を唆した。いや、唆すなんて意図はなかったんだろうけど。

「捕まえたら青い鳥じゃなくなっちゃうとか思ってんの？」

「まさか。あぁ、でも、そうかも」

「黒い鳥になるか、死んじゃうか。羽根だけ残して消えるか」

「珍しく詳しいね？」

「好きな絵本だったから。青い鳥。」

智君と本の話をする事は付き合っていた頃もそれ以外もほぼなかったのに、この時は珍しくお喋りだった。僕が翔くんを“青い鳥”と比喩したのはいつだったか、それに対して智君はえらく気に入っているようだった。

どういうかたちであれ僕が動けば事態が変わる。良い方に転ぶか悪い方に転ぶかはわからない。カムアウトする気は更々ないから良くて授業以外にも話が出来る仲、悪くて避けられるだけ、くらいだとは思っていたけれど。翔くんが僕という個人を認識してしまうのが少し怖かった。
まさか自分が、言ってしまえば子供相手に暴走してしまうなんて事はないにせよ、人間というのは欲深い生き物だから。小指の爪ほど近付いた距離が次は手のひらくらい、片腕、両腕を広げたくらい、なんてエスカレートしていくのが怖かった。

教師と生徒の壁を超えられるとは考えられなかったし、超えてしまってはそれこそマズい事は理解していた。理解は、していた。