【東方project】甘く冷静な恋を貴女と。【短編集】 (ページ18)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:22,058 hit

半人半霊の一人前―【魂魄妖夢】[後編] ページ18

足を踏み出し、Aの喉元めがけて楼観剣の切っ先を走らせる。風の切る音と共に、その切っ先はAの喉元ではなく首筋の真横についていた。
時間にして僅か一秒未満。その刹那の中、Aは自分の喉元に来るはずの刃を素早い動きで避けてみせた。

「……やるね妖夢、前回より上達してるぞ」
「良かった……変わってないって言われたらどうしようかと……」

正眼の構えに戻り、一度刀を鞘に納める。

「ふむ……妖夢にはもう私は必要ない」
「え？何を仰っているのです？」
「妖夢は充分剣術を学べていると言うことだよ。これ以上の教えは必要ないはず」
「え、もう剣術を教えてはくれないんですか？」
「……残念だけど、そうなるね」
分かりやすく肩を落とす妖夢。少し心が痛むが、これも妖夢の為だと自分を叱る。

「私が教えたことが頭に入っているなら、私を超えられる」
「……今の私の実力では無理ですよ」
「それは今だろう？修行を続ければ私を超えることは苦じゃない」

妖夢は一息置き、Aの眼を真っ直ぐに見つめ、口を開く。

「では最後のご教示をください。それを教えていただけるのであれば、私は貴女を超えます」

そう強く心に決めた妖夢だが、その眼には涙が浮かんでいた。涙を見逃さなかったAは妖夢の涙をそっと拭い、微笑みながら言う。

「私からの最後の教えだ。心の底から誰かを愛してみろ。今までの修行に比べたら一番簡単だろ？」
「ですが、何故……？」
「誰かを愛すことで、その剣術の腕前も自然と上がる。先に言ったように、守りたいと思うからだ」
「…………」

黙り込む妖夢から離れ『今日はもう帰るよ』と歩みを進めながら背を向けて言う。
その背をただ見つめながら、妖夢は悲しい表情をしたまま『お気を付けて』と返す。

「また別の日にでも来ることにするよ。妖夢が教えを破る気がするからね」
「貴女からの教えを破ったりなど、そんなことは致しません」
「そっか。くれぐれも愛すことを忘れるな。じゃあね妖夢」

後ろ手に手を振り、白玉楼を去る。
去っていくAの背を先程とは違う、活き活きとした表情と眼で見つめる。
ぎゅっと手を握りしめ、必ず教えを守ると誓った、一人前の半人半霊の少女。