△ 大丈夫、大丈夫だから ページ42
それからしばらく、髪留め探しに付き合った。夢の中だから五感は感じられないのに、泥水に体力を奪われているような心地がする。月だけが頼りの真っ暗闇で、ザブザブと水を掻き分けた。自然と思い出されるのは、まだ鬼狩りにもなってない夜、一緒に寝ていたときのこと。
△
「……お願い、ちゃんと、やるから。今度は、できるから。もう、逃げない、から」
善逸のいびきが止んだと思ったら、誰だかわからない相手に泣きすがっていた。東京にも雪が降りしきる厳しい冬で、その夜も凍てつくほど寒かった。だけど布団の中で善逸の体は燃えるほど熱くて、夏のように汗をかいていた。
「ごめんなさい、見捨てないで、置いてかないで、もう泣かないから、だから、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………」
じいちゃんに拾われる前の記憶が、過去の傷が、永遠に善逸をむしばむのかもしれない。一体、誰に謝ってるんだろう。体の傷が癒えることはあっても、心の傷が癒えないこともある。わたしは善逸の汗ばんだおでこを撫でてやる。そうすると呼吸が少しだけ穏やかになった。
「大丈夫だよ善逸、大丈夫だから」
「……A、ちゃん?」
「うん、わたしがいるから。大丈夫だから」
何が大丈夫なのか、わたしもわからないまま、とにかく泣いているきみを慰めたくて、金色の頭をかかえるように抱きしめた。
△
「善逸、どこか痛いところはない?」
わたしはもう足や腰が悲鳴を上げているよ。いくら探しても、終わりが見えない。髪留めなんて本当はどこにもないんじゃないかな。ちいさな善逸は、足でも、腰でもなくて、胸元を握った。
「……お姉さん、どうしておれ、一人でこんなことさせられているのかな?どうして、まだ子どもなのに、働かなきゃいけないのかな?どうして、こんな思いしてるのかな?どうして、誰も守ってくれないのかな?どうして、お父さんにも、お母さんにも、捨てられたのかな?どうして、こんな不気味な耳をもってるのかな?おれは前世で何か悪いことしたのかな?おれは、いつになれば、しあわせになれるのかな?」
△ きみはやさしさに弱かった→←△ 夜が明けたら私をあげるよ
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あき - うわぁ、HUNTERHUNTERも書いてくれるなんて……🥹🥹 (2023年1月30日 14時) (レス) @page50 id: 099b645bba (このIDを非表示/違反報告)
まっひぃ - 善逸のそういう所好きだぁー!😁かわええ (2021年11月11日 15時) (レス) @page48 id: d24aae8d9d (このIDを非表示/違反報告)
ひとみちゃんDX(プロフ) - 今まで読んだ中で一番好き! (2021年10月29日 12時) (レス) id: 0e9cb43b28 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ割り人形 - わあわあ好きだあ途中どうなったのってなったけどちゃんとハピエンで良かったああうわん嬉しすぎて嬉し涙が…というかヒロ◯カの小説も書いていらっしゃるなんて!今すぐ読んできます!あ、この作品めっちゃ良かったです!好きです!(唐突の告白 (2021年9月12日 7時) (レス) id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 sud .(プロフ) - とっても素敵でした。 (2021年9月9日 15時) (レス) id: a463316156 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2019年10月4日 22時