俺が恋をしたのは片足がない人だった。【高尾和成】

ひとつの障害 ページ2

「あぢい……」


ぎらぎらと照りつける太陽は、熱気を放つアスファルトの上で自転車をこぐ俺を容赦なく焼く。
後ろのチャリアには真ちゃんがいて、いつもの光景が広がっているにもかかわらず、
なんだ、この猛烈な暑さは。

「図書館に着くまでのしんぼうなのだよ。」

そう、俺たちは今、図書館に向かっている。
っつっても、俺はただ真ちゃんについてくだけだけど。

図書館に着くと、目の前の自動ドアは俺たちを歓迎したように勢いよく開いた。
すると中から冷気がすーっと俺たちの隣を通り、汗をかいた肌には肌寒くも感じた。
中は外では考えられないほどに恐ろしく冷えていて、人の中にはパーカーを着ている人さえいた。

真ちゃんは戻る時間を俺に言い、さっさと本の棚の方に進んでいった。
ちょっとくらい構ってくれたっていいじゃんかよ……。
俺は読みたい本もなく、ただフラーっと奥の棚まで進んだ。

一番奥には歴史の本や伝記がまとめられておいてあった。
するすると本の背表紙を指でなぞっていくと、ある一冊の本が目にとまった。
『ヘレン・ケラー』
確かこの人、目と耳に障害があったんだっけ…。
たしかしゃべれなかった気がする。
ろくに覚えてもいない記憶をなんとかたぐり、そんなあいまいなものが頭に浮かんだ。

「こんな人と付き合ったら大変だろーな……。」

俺はそんな言葉を漏らした。
いや、これは障害がある人に失礼だっつーの。

「あの。」

ふと、下の方で声がした。
小さな子だろうかと思ってみてみるとそうではなく、俺と同じくらいの年の女の人だった。
でも、明らかに背が低い。よく見てみると、車いすだった。

「あ、ああ、なんすか？」
「本をとってほしいんです。これだとどうも届かなくて。」

彼女は本を指さしながら言った。
その本を抜いて渡すと、丁寧にありがとうと言われ、頭まで下げられた。

「ヘレン・ケラーですか？」

俺の持っていた本に目をおとしながら言う。

「ああ、こんな障害がある人と付き合ったら大変だろーなって…あ、すいません！失礼っすよね…。」

彼女もそんな障害があるから車いすに乗っているのかもしれない。
いや、でも病気とか、そういうのもあるかも。
とにかく失礼なことを言ってしまったと後悔し、口を閉じた。

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