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7話 人見知り&上がり症 ページ8

「……」

「……」

廊下で待機する間、私達はお互い一言も喋ることなく、黙って時間がくるのを待っていた。元々、私達兄妹は決して口数が多い方ではない。姉だけは例外だが。兄の凌介も饒舌ではないし、私なんて典型的にそうだ。

それに今、私には余裕がなかった。

「……ッ」

「……だ、大丈夫か?A」

自分でも抑えられないくらい、無意識に体が震えていた。手が汗ばみ、冷や汗が頬を伝わる。緊張と不安から、立つのがやっとな程だった。

凌介が、落ち着かせるように私の頭を撫でる。

「いいか?とりあえず、名前と宜しくお願いしますだけ言えばいいから」

「……」

「そんな緊張しなくても大丈夫だって。ものの数十秒、いや、ほんの一瞬教室の前で挨拶するだけだろ?」

「……き、緊張なんか、してない、もん」

「のわりには、声が裏返っているけどな」

「……っ」

私は、人見知りプラス、上がり症なところがある。慌てたり、人前に出るとすぐに顔が赤くなる。それは、言わば小さい頃からの癖として散々言われ続けてきた為、自分でも十分承知だった。

「……犀川Aです、宜しくお願いします。……犀川Aです、宜しくお願いします。犀川Aです、宜しくお願いします……。大丈夫、私ならやれる。私なら出来る。……犀川Aです、宜しくお願いします」

「……なんか、怖い呪いみたいになってる」

凌介が、呆れたような視線を投げ掛けてきた。だが、私は気にせずに何度も同じ言葉を復唱する。暫くして、教室の中から先生の声が聞こえた。

「……はい、今日は、転入生の子が来ています」

「!……そろそろ出番だぞ、A」

「!」

待って、出番早くない?

私は肩を震わせる。今になって、頭が真っ白になりつつある。さっきひたすら練習していた言葉も、頭の中から綺麗さっぱり洗い流されていた。

「なんと、実はあの有名な犀川財閥のお子さんです」

教室内に多少のどよめきが広がる。私達は揃って、扉の向こう側の先生を恨めしげに睨んだ。

……要らんこと言うなよ、先生。

「……それではAさん、入って来てください」

「……頑張れ、A」

「!」

私は、震える体を抱き締めるように制服を握りしめた。深く、深呼吸をする。

「……よ、よし」

凌介の応援を背に、私は意を決して教室の扉を開けた。

───ところまでは良かった。

8話 自己紹介タイム→←6話 犀川兄妹と教室



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翡翠(プロフ) - モトコさん» ありがとうございます。がんばって更新します! (2018年11月3日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
モトコ(プロフ) - 続きが気になります。更新頑張ってください! (2018年11月3日 23時) (レス) id: e294c9830f (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - ゆっくりノワールクローンNo.1さん» ありがとうございます!これからももっと面白くしていきたいと思います!頑張りますね! (2018年8月14日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりノワールクローンNo.1(プロフ) - ものっそい好みの作品です!!夢主ちゃん世間知らずで可愛いし間接キス知らないとかもう悶えちゃいます!!これからも更新頑張ってください!! (2018年8月14日 20時) (レス) id: a2e5a81f28 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます(*≧∀≦*)!!がんばりますね! (2018年8月1日 9時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年7月12日 19時

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