8話 自己紹介タイム ページ9
教室に入り、僅か数秒。私は既に、ショート寸前と言っても過言ではなかった。
……何故か。三十人近くの目が、全てこちらを貫くように見ているからである。どの視線も、好奇心で満ち溢れていた。
「……さあ、Aさん。簡単に自己紹介をしてくださいね」
桐島先生が、そっと私に近付いて耳打ちした。
……先生、わかっているんです。わかっているけど、私には無理なんです。
「……あ」
殆ど俯いた状態で、微かに声が漏れる。目線だけを動かして扉の方を見ると、凌介が上向きに指を立てて何かを知らせようとしていた。
───前を向け、顔を上げろ。
何となく意味がわかり、恐る恐る顔を上げた。恐らく、私の顔は相当真っ赤に染まっていることだろう。それも、林檎の如く赤く。
全体を見回す余裕など全くなかったので、自然と背面黒板の方へ目線がいった。
「……!」
すると、一番後ろの席に、恐らく凌介が言っていたであろう赤い髪を持った男の子がいた。見間違えたはずはないだろう。私の目が可笑しくない限り。目は合わなかったけれど、綺麗な顔立ちの人だなと柄にもなく思った。
そして、ふと気付く。他にも、黄色や青や緑、紫、桃色など、色とりどりの髪色をもつ生徒がいることに。
……この学校って、髪を染めても良いところなの?それとも、不良?何で、何でよりによってそんなクラスを選んだの、父さん。
絶対関わりたくない、と私は心に誓った。
「……Aさん?」
「!」
そうだ、自己紹介をしなくては。
「……っ、さ」
「?」
「……さ、ささささ、犀川、A。……です。よ、よよよろしく、お願いしまふっ!!」
あ。
……噛んだ。
勢いよくほぼ投げやりな気持ちで叫んだ結果、最後の最後でまさかの大失態を犯してしまった。
「……!」
生徒達の視線が痛い。恥ずかしい部分だけが、頭の中で執拗にリピートされる。今すぐ帰りたい。
「……はい、自己紹介ありがとう。皆仲良くしてあげてね。じゃあAさんは、一番後ろの空いている席でいいかしら」
その場の雰囲気を変えるように、先生はパンッと手を叩いてニッコリ笑みを浮かべた。全てにおいてのやる気が失せたまま、先生の指差した先を見ると。
「……あ」
先程の赤い髪の人の隣だった。しかも今度は、確実に目が合った。
……もう、無理です。
その瞬間、私は自身の限界を悟った。
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翡翠(プロフ) - モトコさん» ありがとうございます。がんばって更新します! (2018年11月3日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
モトコ(プロフ) - 続きが気になります。更新頑張ってください! (2018年11月3日 23時) (レス) id: e294c9830f (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - ゆっくりノワールクローンNo.1さん» ありがとうございます!これからももっと面白くしていきたいと思います!頑張りますね! (2018年8月14日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりノワールクローンNo.1(プロフ) - ものっそい好みの作品です!!夢主ちゃん世間知らずで可愛いし間接キス知らないとかもう悶えちゃいます!!これからも更新頑張ってください!! (2018年8月14日 20時) (レス) id: a2e5a81f28 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます(*≧∀≦*)!!がんばりますね! (2018年8月1日 9時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年7月12日 19時