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「「部活、いくよ」」
僕たちがそういうと、彼女はいつも断った。
「今日はオーケストラの数合わせで呼ばれてて」
忙しいのもわかるけど、どうにか出来ないものかと部で話し合った結果、
とりあえず僕らホスト部で本条Aのソロコンサートのチケットを取って、
今日の放課後、そのコンサートに行く。
私立大学のホールでの演奏で、警備員やすっかり大人の演奏者達がわんさかいて、
音響機器など様々な設備の整ったこの環境と、
たくさんの人がお金を払ってまで聞きに来るコンサートに、彼女が凄い人だと思い知らされる。
「光、迷子にならないでよ」
「ならないよ。なるわけないじゃん」
チケットを係の人に渡すと、客席の番号の書いた紙を渡された。
僕たちはそこそこ後ろの方の席だったけど、舞台裏から出てきた彼女に目を引かれる。
「え、え?可愛くない?」
くっきりとした二重に、緩く巻いた髪、ドレス姿で出てきた彼女は普段と全く雰囲気が違っていた。
そんな彼女がふわりとお辞儀をすると、軽く主催者の挨拶や携帯などの注意がはいって、
そうしてアナウンス。
「バイオリニストの本条A様によるクラシックメドレーが間もなく始まります」
そのアナウンスが入ると、彼女はお辞儀をして早速演奏を始める。
僕にバイオリンの事は分からなけど、以前聞いたピアノの演奏よりも数倍迫力があって、
鳥肌が立った。しかも、楽譜を見ていないのに続けて何曲も何曲も沢山の曲を
完璧に演奏しきった。そんな彼女を見て、気品のあるお年寄りが涙を流していたり、
逆に何を思ったのか、席を立ってさっさとホールから抜けていく人もいた。
そうして彼女の最後の挨拶
「満足がいく演奏をできませんでした。」
ホール全体がどよめいた。
「皆さまが聞いて、よい、と感じていただけたのなら、
この演奏会は成功かもしれません。けれど、私のどこか物足りない演奏で
不甲斐ないです。
今日は私本条Aのためにわざわざありがとうござました」
どうにか彼女は締めくくったつもりかもしれないけど、ホールのざわめきは消えない。
「満足がいっていない?彼女はどれだけ高みを目指すんだ?」
「これ以上の演奏なんて…」
「充分だというのに」
そんなざわめきの中聞こえた。
「ユミコ様ね。」
「Aちゃんのお母様でしょう?」
「絶対音感持ちの千年に1人の逸材ですってね」
「あぁ、だからAちゃんは自分の演奏を卑下するのね」
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作者名:卣秦 | 作成日時:2019年10月23日 18時