処刑台にて【日々樹渉】 (ページ1)

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革命ページ1

幕の開いた舞台、流れたままの音楽。きっとこれは、革命のエチュード。なんと皮肉なことか。
それに合わせて踊る赤い薔薇の花弁が、そこにほのかな甘い香りを漂わせていた。

「……また、彼ね」

Aはその中の一枚を拾い上げて、手の平に広がる赤を見つめた。

＿＿私はこの薔薇の主が誰かを知っている。

そして彼が、激しく愛情を唄い、世界中の誰かにこの花弁をばら撒いていることも。
そう思うと、なんだか彼は悪趣味だと言える。こんな薔薇の花に愛情を乗せて、誰に対しても愛を振りまくのだろうか。

思いを巡らせながら、手のひらの中の花弁を床に落として、ひらひらと落ちていくのを見ていた。
そうしたらなんだか、その花弁が彼のような気がしてならなかった。薔薇の花弁が散るように、虚しく断罪されていったあの日の彼だ。

Aはその日のように、目の前の、ステージライトに照らされたままの舞台を見上げた。
赤いカーテンの奥に広がる、真っ白で、美しい、まるで天国のようなステージ。それに不釣り合いなブーイングの嵐の中で、彼は愛を唄っていた。それは彼の悲痛の叫びのようでもあったし、また観客への憐憫を含んだ笑い声のようでもあった。

ラブシーンの最後にはキスを、ハッピーエンドには処刑台を。観客はそれが正しいのだと疑わずに、誰しもがその最期を好機の目で見ていたのだ。その時のこの客席の高揚感を、Aは今ここで事が起きているかのように思い出すことができた。誰もが天使の歌う甘美な響きに陶酔して、その歓声が、あったはずの舞台裏の悲劇をかき消してしまった。

けれど彼は、彼だけが笑っていた。天使さえも苦痛の表情を浮かべていたあの舞台で、まるでそうあることが喜びかのように。いや、確かに喜びだ。演者にとって、それは最上級の幸福だ。

けれどそんな彼の姿は、Aに憐憫の情を抱かせた。それだけではない。演者としてのAの信念に、一抹の懐疑を残していったのだ。それはインクの染みが広がるが如く、心の奥深くへ滲んでいった。

＿＿ああ、あの時貴方に触れられたら良かった。そうしたら、きっと私は世界で一番の幸せ者になれて、すぐにでも死んでしまえたのに。