なつかしいところ ページ41
まさに、イタチの追いかけっこ状態だ。
フォスは必死に訴えかけるが、先生は動揺も何もしない。
無駄だとわかっているのだろうが、それでも続けるフォスの図太さは一周回って呆れる程だ。
「それについて、私は答えることが出来ない。」
眉を歪める。
中々、いや、かなりもどかしい。
先生と直接話してはいなくても、くるものがある。
「おまえの疑いは尤もだ、疑念を抱かない方が難しいだろう。すべてわかっている。」
すっかり海に沈みかけている橙色は、スポットライトのようにフォスと先生の足元を照らす。
「だが答えることは出来ない。すまない、それでもーーーー」
風が、どこからか強く吹いてくる。
「おまえたちを愛しているよ。」
＿＿＿
「なぁ、カンゴーム。」
珍しく一人でいたカンゴームに、出来心で声を掛ける。
出来心といっても、前からカンゴームと話したいと思っていたのでいい機会だ。
「珍しいな、アマゾナイト。なんだ。」
白色の瞳が、こちらに向けられる。
まさに穢れがなく、直視する事が厳しすぎる瞳だ。
もし、直視する事を俺は許しても、きっと“誰か”は許しはしてはくれない。
「月は、どんな場所だと思う。」
月？と、カンゴームは言う。
「月関連ならアレキの方がいいんじゃないのか。」
「カンゴームの話を聞きたい。」
何故カンゴームか、と聞かれると、答えることが難しい。
あえて答えるとしても、なんとなくとしか答えることは出来ないだろう。
「……なんか、フォスに似てるなお前。」
「それ悪口？」
「すまんすまん。そうだな、月か…。」
カンゴームは顎に手を当てて唸りを上げる。
かなり考えている様子だ。
当たり前と言っちゃ当たり前だ、全く知らない場所を想像しろと無茶言っているのとほぼ同じだから。
「まさに、皆の苦手が詰まったようは場所…とかな。」
皆の、苦手。
カンゴームに続いて呟く。
「ただの想像と妄想だがな。んで、お前はどんな場所だと思ってるんだ。」
まさか、こっちに話が振られてくるとは思わなかった。
元から考えている訳がないため、必死に脳内でイメージする。
ーークリソコラ、その名前が、突然頭に浮かんできた。
「そう、そうだな…。懐かしい所、とか。」
「懐かしい所？」
「あぁ。懐かしい宝石達が、いっぱいいるはずだろ。」
少しだけ、本当に少しだけ。
カンゴームの顔が歪んだ気がした。
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作者名：兀 | 作成日時：2018年6月3日 20時
