あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ46)

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番外編【それは貴方に出会えた日】5 ページ46

「ほんなら、そろそろ帰んでー。」
『え、もう帰っちゃうの？』

気付けば随分と懐かれたらしい
悲しそうな瞳で顔を覗き込んできた

「おん。良い子は暗くなる前に帰らんとなァ。」
『そっかあ、』

残念そうに俯く少女の脇に手を差し込んで持ち上げ、立たせてやる

「今日はおねぇの誕生日なんやろ？はよ帰ったりぃ。」
喜ぶで。

ニヤリと笑うその人に胸の奥がキュッと痛い

『・・？』

なんだろ、これ？
自分の胸に手を当てて首を傾げる

「ほれ、帰るで。」
家どこやねん。

そう言って大きな手でわたしの手をとって、ゆっくりと歩き始める猫背に
よくわからないけど胸がドキドキとうるさい

握られたその手がとにかく嬉しい

『ありがと、おじさん！』
「誰がおじさんや！お兄さんと呼べ！」

怒ったように言う彼と繋いだ手を
嬉しくって嬉しくってブンブンと振り歩いた

握られた手はひどく温かくて、この人はやっぱり太陽なのだと思った

「ほれ、これ持って帰らんかい。」

森の奥に平家が見えてきた頃、おもむろに彼が小さな紙袋を差し出した

『ん？なにこれ？』
「アホ、これ買いに行ったんやろ。」

そうだった！と手を叩いて
ありがとう、というと小さな手で受け取る

『嬉しくって忘れてた！』

へへへ、と笑う少女の頭にポンと手を乗せた

「よう頑張ったな。」

穏やかに笑う彼は紙袋を離した手でAの頭をゆるゆると撫でた

ギンと乱菊以外に撫でられた事など一度も無い

何故この人は、こんなに優しいのだろう

「絶対喜んでくれんで。」

そう言って笑うその顔が酷く目に焼き付いた。

優しい顔、風に揺れる髪。

身に付けた物も、住む世界も、
きっと全てがわたしとは真逆の、美しい金。

思わず見惚れていたら、
繋いでいた手がそっと離れた

『あっ、』
「ほなな。」

一言短く言うと、彼は背を向けて歩き出す

『あ、あのっ！』

んー？と気だるげな様子で顔だけ振り向いた

『ぜ、全部ありがとう！』

声を張って思い付く限りの言葉を届ける

初めて目にした" 異色 "は、何よりも暖かくて美しい色だった

「全部ありがとうってなんやねん。」

大袈裟やなァ～。
そう言ってその人は口を開けて笑った

彼は再び歩き出すと、やっぱり気だるそうに背中越しでひらひらと手を振ってくれた

ザッザッ、と草履の擦れる音が耳に残る

揺れる金髪が、少しずつ離れていく

それは貴方に出会えた日

(生きてまた会いたいと、そう願った)