あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ45)

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番外編【それは貴方に出会えた日】4 ページ45

「ーーほれ、こっちきぃ。」

Aの話を聞き、暫く考える素振りをみせていた彼がおもむろに手招きをする

素直に立ち上がった少女の手を引くと、胡座をかいた脚の間に座らせた

「前向いときや。動いたらアカンで。」

背中から聞こえる心地良い低音と、
シャッシャッ、と滑る様な規則正しいリズム

大人しく座る目の端で銀髪が揺れた

「まだ動いたらアカンで。」
『、？』

規則正しいリズムが終わったと思えば
ガサガサ、バリバリと破るような音が聞こえて
次の瞬間にはスッと耳の上に何かが滑る

「ハイ、カンセー。」

Aの肩をギュッと掴み、前のめりになった彼は
肩口から少女を覗き込むと視線を合わせてニヤリと笑った

「見てみぃ。我ながら上出来や。」

呟き、湖を覗く彼の真似をする

『わぁ・・！』

覗き込んだAの顔が一瞬で輝いた

反射する水面の先

そこには先程までの見窄らしい自分はおらず、
バラバラだった毛先は綺麗に一文字に切り揃えられ
右耳の上には濃い紫色の輪っかがついていた

それに太陽が反射して、水面がキラリと光る

身体の内側からブワリ、と浮き上がる様なこの感覚は、何と言うのだろう

ドキドキとは、少し違う。
ワクワクとも、少し違う。

ぶるぶる、が近いかもしれない。

初めての感情をうまく言葉に出来ない

「そない盛大に覗き込むなや、落ちるやろ！」
『ねぇ、すごい！』
「全然聞いてへんやんけ。」

口角を下げた彼が掴んだままの肩を落ちない様に支える

『おじさんすごい！』
「コラァ！誰がおじさんじゃ！どう見てもお兄さんやろ！」

そう言って怒る、その人に
込み上げる笑顔が止められなくて。

太陽の様なその人が照らしたわたしの世界が
この一瞬で輝いた事を、忘れる事はない。

否、忘れられるはずがない。

『この輪っか、なぁに？』

脚の間に座ったままの少女の肩から手を離し、
肩や背についた細かい髪の毛を払ってやっていると振り向きざまに少女が尋ねてきた

「髪飾りや。洒落とるやろ？」
『洒落とる？』

大きな目を丸くして、首を傾げる

「洒落とるはなァ、ええ感じってことや。」
『ええ感じ？』
「せや、ええ感じや。」
『ええ感じ♪』

ニコニコと笑う少女はよほど嬉しかったのか
水面を覗いては髪留めを触って、しばらく見た後はこちらに向き直って話しかけてくる

『ありがとう！とっても嬉しい！』

無邪気な笑顔でそう言われてしまえば悪い気はしなかった

「そらよかったわ。」