あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ41)

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尸魂界編　10-4 ページ41

人は、死を目前に走馬灯を見るのだという。

わたしだって死神だ。
いつ、何処で誰が死ぬのかもわからない世界で生きてきた。

自分がいつか死んでしまう事だって、理解している。

大切な友達も、敬愛していた上官も、百年前のあの日に死んだ。

それからというもの、わたしは全てを失った。

居場所も、目標も、生きる意味すらも、
死んだあの人達と共に何処かへ行ってしまった。

そんなわたしに、変わらず手を伸ばしてくれたのは

ーーおにぃ。あなただ。

この手を引いて、連れ出してくれたのは他でもないあなただ。

それなのに、どうして。

わからない事しかない頭の中、思い浮かぶのは二人の笑顔だった。

それは、幼い日の記憶

おにぃがいて、おねぇがいて、わたしがいた。

貧しくとも確かな幸せがそこにはあったんだ。

走馬灯、だなんて大袈裟かもしれない。
だってたった一つ、それしか思い出せないのだから。

最後に思い浮かぶ情景が、幸せなもので良かったと思った。

例えその全てが偽りの幸せだったとしても、
わたしの世界では、それが全てだったのだから。

ーーゴフッ、

Aに突き刺した神槍が元の長さへと戻った

刀が抜けてAの口から吹き出した血がギンの隊主羽織へ染みを作る

重力に逆らえず倒れる細い身体が、目の前にいたギンへもたれかかった

「ーー・・。」

目を見開いたまま、崩れ落ちた人形の様にピクリとも動かない彼女

その傷口から吹き出る様に流れる血は止まらない

自身の死覇装が彼女の血を吸い込んで素肌に貼りつく

冷えていくAの身体には触れず、ギンはその場から立ち上がった

ドサリ、と無情にもその身体が地へ落ちる

目に映る光景に藍染が楽しげに口角を上げた

「・・なんだ、連れて来てくれるものとばかり思っていたよ。」

そう言って微笑む藍染に、ギンはいつもと変わらない笑みで振り向いた

「これじゃあ、むさ苦しい男所帯になってしまうね。」
「すんません。殺してもた。」

いつもの様にゆるり、と歪めた口元。
神槍についた血をパッと振り落としたギンはゆっくりと刀を納めた

「構わないよ。おもしろいものが見れたからね。」

行こうか、ギン。
呟く藍染のその後ろへとつき、彼らは歩を進める。

誰の思惑もわからぬまま、
全ての真相は影の中へと葬り去られたまま、二人の姿は闇へと溶けた

その真実へと一歩近付いた卯ノ花だけが、この場所に近付いていた。