あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ38)

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尸魂界編　10-1 Cold palm for you. ページ38

『ーー・・っ、』

日番谷の戻った地下議事堂を目指し、来た道を出せる限りのスピードで駆ける

風に靡く銀髪。ぐっと歪めた瞳。

奥歯を強く噛み締めて、先程の副官補佐を想う。

眼の下は落ち窪み、酷く窶れていた彼の荒げた声が今も耳に響く

ーーそれは、僕に対する侮辱行為だ！！

初めて目にした悲痛な表情に、未だ胸の奥が騒がしい

何十年と側にいた自身の副官補佐。
彼はギンの補佐官ではなく、Aの補佐官だった

気の弱い所はあるものの誰よりも忠義に厚く、礼儀正しく、真面目な彼と
まさか対峙する日が来るだなんて、考えた事も無かった

あのイヅルがギン以外の指示を聞くとは到底思えない

『おにぃ・・、』

瞬歩で駆けるAの瞳が更に強く歪んだ

ーーイヅル君を、どうするつもりなの。

連なる隊舎の屋根を跳べば、地下議事堂への入口が見えた

迷う事なく足を踏み入れた刹那、地響きの様な霊圧が降り注ぐ

『・・ッ！』

あまりの重さにAの瞳が大きく見開いた

その出処は駆けている地下通路のその先、まさに今目指している地下議事堂だ

ヒヤリ、と凍る様なこの霊圧は間違いなく日番谷のもの

ーー！？

そう思ったのも束の間、膨れ上がった日番谷の霊圧が一瞬にして掻き消えた

言いきれぬ不安が走り続けるAの全身を包む

ーーなに、何、

何が起きてるの、

目の前に見えた曲がり角を勢いを落とすことなく蹴って進む

真っ直ぐに見据えたその先にある議事堂の扉へと力強く足を踏み締めて飛び込んだ

刹那、冷えた空気がAの身体を震わせた

『ーーひ・・日番、谷、隊長・・？』

飛び込んだ先の部屋は辺り一面凍りつき、幻想的な雰囲気を醸し出していた

ゆっくりと呟き、動かした瞳に紅が映る

美しい雪景色と嫌になる程に不釣り合いな深紅の血の海。
その中央に、沈む日番谷の姿があった

感じ取れない霊圧。
ピクリとも動かない彼。

まさか、死んでーー

『ッ、ゲホ、ゲホッ・・はっ、はっ・・っ、』

突如込み上げる発作に思わず片膝をつく

生理的に滲む涙。胸を叩く動悸に目眩がする

あの人が居なくなった百年前のあの日から、この発作が消えない

理由なんて、わかりきっている。

『・・ッ、はっ、はっ・・』

落ち着け、落ち着け

大丈夫、大丈夫だから

大丈ーーー

「ーーやあ、よく来たね。A。」
『・・ッ』

響く声に、苦しかった筈の息が止まった

目に映る景色、それは正に絶望の色をしていた