あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ30)

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尸魂界編　7-1 冷たい手のひらをキミにページ30

ーー冷たい。

何かが触れている頬が冷たい。

酷く重たい瞼を開けることが出来ずに、
ぼんやりする頭で近くの霊圧を探る

慣れ親しんだ香りを見つけ、Aが呟いた

『・・おにぃ？』

その瞬間、頬に触れていた手のひらが一瞬ぴくりと動いた

「起こしてもうた？」
堪忍な。

柔らかく響く声と共に自身の頬から手が離れて行く。

それが何故か嫌で、寂しく思えて、
追い掛ける様に自分の手を重ねた

『おにぃの手、冷たい。』
怪我してるの？

触れているのは、確かに彼の手。
何十年と側にあった大好きな温度。
それなのに今までにない程、冷たく、悴んでいる様に思えた。

未だ、重い瞳は開けられないまま。

目を閉じているAが彼の手に擦り寄る様にして呟く

「・・A、ご免な。」

それは、何に対する謝罪だったのだろう。

彼はやはり、わたしの問いには答えてくれなかった。

『・・おにぃ、泣いてるの？』

何故そう思ったのか、わたしにも判らない。
だけど何故か、彼が泣いている様な気がした。

わたしの中の全てが目を覚ませ、と叫んでいる。
その手を離すな、と叫んでいる。

「・・泣いてへんよ。」

起きなきゃいけないと思う程、意識は深く深く落ちていった

『ーー・・』
ここ、はーーー四番隊か。

ぼんやりとした頭で少しだけ身体を起こす。
右手にかすかに残る霊圧。これは、

『・・、』
「目が覚めましたか、A」

救護室の扉から穏やかに微笑みを浮かべた四番隊隊長・卯ノ花烈が顔を覗かせた

「また随分と無理をしていたようですね。」

目を伏せながら心配そうに呟く彼女にAは頭を下げる

『すみません、ご心配をおかけしました。』
「構いません。目が覚めて良かった。」

いつもと変わらぬ柔らかな微笑みにAがゆるり、と笑った

「松本副隊長がお見舞いに来ていましたよ。」

穏やかな表情で言う卯ノ花にそうですか、と返したAが眉根を寄せると口を開く

『あの、藍染隊長は、』
「藍染隊長はお亡くなりなりました。」

事件、事故、あらゆる方面を考えて調べましたが。
そう続ける彼女の顔色が曇りを帯びた

『そう、ですか。』

俯くAの元へ卯ノ花がゆっくりとした所作でやってくると
労る様に肩に手を乗せ、彼女はまた微笑んだ

「心が落ち着くまで、ゆっくりしていきなさいね。」
『・・ありがとうございます。』

何も聞かない卯ノ花は彼女の肩から手を離すと、救護室から出て行った