あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ26)

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尸魂界編　5-3 ページ26

『もう、平子隊長はいないの・・』

お猪口を手放した手で
Aは自分の身体をギュッと抱きしめる

自分に言い聞かせるようにして、震える声で呟いた

『平子隊長は、もう・・死んだの。』
その話はしないで。

呟いたAがキッ、と彼を睨む

大きな瞳に涙を溜め、肩を震わせている彼女の頭に
ギンはその大きな手を乗せた

先程の表情は見間違いだっただろうか？
そう思うほどに切ない顔をして微笑むギンに
Aの胸の奥がキュッと鳴った

「もう寝よか。」

そう言うとAの頭をそっと撫でて
ギンがおもむろに立ち上がる

『ま、待って！』
「・・？」

それ以上は何も言わず、自分の寝室へと向かおうとした彼の手をAは掴んだ

不思議そうに見下ろすギンは
掴まれた手に力を入れると彼女を立たせてやる

珍しく彼の手を掴んだまま離さないAに、今度はギンが声をかけた

「どないした？」
『・・、』

俯いたまま、それでも握った手は離さない

「A・・？」

首を傾げた彼の手を引いて、Aはその胸に飛び込んだ

「っ！」

珍しく抱きついてきた彼女に、ギンの細い目が開く

『何も聞かないから・・、だから、』
今日は一緒に寝てもいい・・？

すがるように抱きつき、肩を震わせているAに
ギンは思わず顔を顰めた

その細い肩に手を回してギュッと強く、優しく抱きしめる

それくらいしか、今の自分にはしてあげられる事がないから。

「しゃあないなぁ。今日だけやで。」

困ったように笑うと腕の中から震える声が聞こえた

『おにぃ、だいすき。』
「・・っ、」

切なく響いたその言葉に、ひどく心が震えた。
口を開けばこの震えがAに伝わってしまいそうで何も言えなかった

伸ばした右腕にAの頭が乗っている。
あどけなさを残した寝顔をしっかりと目に焼き付け、
空いた左手で柔らかい頬をそっと撫でた

幼い頃から、いつだって側にいた大切な妹。

影に住む自分には、彼女はいつだって太陽だった。
こうして触れられるのは、きっと最後だ。

「ボクもや、A。」

その呟きは朝の微睡にそっと溶けた

少しだけ見えるAの額に触れるだけのキスを落とすと
彼女の頭からそっと腕を抜く

起こさないように布団から出ると着流しを脱ぎ、死覇装へ袖を通した

もうこの家に戻ってくる事はない。

まだ辺りが明るくならない時間に、
ギンは音を立てる事なく二人で過ごした家を出た