あなたと生きる世界 -尸魂界編- (ページ24)

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尸魂界編　5-1 三日月ページ24

夜が更ける

とっぷりと闇に浸かった空には一つ、儚く光る三日月が浮かぶ

あの三日月が、今にも消えてしまいそうなおにぃみたいだと
例えたあの日はいつだったか。

家の縁側に腰掛けて、いつかのように夜空を見上げる

暖かい風がAの絹織りの白い着物を撫でた。
伸ばし続けた銀髪の先が床に散らばり淡く光る。

夏の終わりが近づいている。

「ーーなんや、こんな遅い時間まで起きてたん？」
『ん、おかえり。』

縁側に腰掛ける寝巻着姿の彼女に声をかけた

帰ってくるのを予想していたのか、振り向いて微笑むAにギンも同じように微笑んだ

「ただいま。」

風呂浴びてくるわ。
それだけ言うと、彼は部屋の奥へと向かっていった

その背中をそっと視線だけで追う

きっとご飯も食べていないんだろう。

そう思いAは縁側から腰を上げると台所に向かった

窯に残しておいた白飯に少しだけ塩を混ぜて握る

夕飯に作った煮付けと玉子焼きを温めていると
気配もなく寄ってきたギンがAを後ろから抱きしめた

『っ！・・おにぃ、どうしたの？』

Aの首元へ顔を埋めるギンの体温は
お風呂上がりだからかいつもより随分と温かくて、
顔のすぐ側に見える少し濡れた銀髪からは
シャンプーの柔らかい匂いがした

『おにぃ？』

尋ねるAに返事は無く、
抱きしめる腕に少し力が込められた

ーーやっぱり彼は何も答えない。

本当は今すぐ問いただしてしまいたかった。

どうしてわたしを避けているの？
何故来ない日が増えたの？
何処に行っているの？
・・何を、しようとしているの。

だけどわたしは聞けなかった。

恐ろしかったからだ。

彼がわたしの知らぬ彼になってしまう事が、
手の届かない場所へと行ってしまう事が、
恐ろしくて仕方がないのだ。

あなただけは、わたしを置いて行かないで、と。

いつまで経ってもこんなわたしじゃ、あなたはきっと軽蔑するだろう。

だからわたしは、物分かりのいいフリをして今日も笑うのだ。

『・・どうせご飯食べてないんでしょ。』

抱きしめられた腕はそのままに、
くるりと身体を捻って向き合うと広い背中に手を回した

ギュッと抱きつきAが微笑む

『ご飯、あっためたから食べて。』

ね？
呟き、穏やかに笑うとAの手がギンのそれを解いた。
抱きしめていた手が重力に従って落ちる。

自身から離れて行く彼女に、ギンは少しだけ顔をしかめた