番外編【世界に色が着いた日】2 ページ3
「あぁ、こらあかん！」
頭の上から聞こえた声にゆっくりと目を開ければわたしを覗き込む知らない少年がいた。
歳の頃は人間で言うところの９つくらいだろうか。
自分よりもいくつか上に見えるその少年は雪に埋まっていたAの腕をぎゅっと掴むと引っ張り上げる。
「こんなとこで寝たらあかんよ。」
起きれる？？
そう言ってAを起こした少年の手が背中へと回り、寒さで悴んで動けない身体が支えられた。
『・・』
「お腹空いてるんやろ？これ、食べり。」
少年は懐からおもむろに何かを取り出すと、何も言えないAの口元へと押し付ける。
言われるがままに、小さく口を開いてそれを齧る。
『・・おい、し。』
「せやろ？まだいっぱいあるから、気にせんと食べてええよ。」
少年はゆっくりとしか食べられないわたしを急かすこともなく、雪の降る寒い森の中でずっと背中を支えてくれていた。
彼に背負われて山道を進む。
ザッ、ザッ、と雪を踏む音と、揺れる視界と、彼から香る柔らかい匂い。
小さな背中だったけれど、触れているそこが温かくって驚いた。
人がこんなに温かいなんて知らなかった。
何故見ず知らずの自分に優しくしてくれるのかわからなくて、わたしはただただ黙り込んでいた。
ーーー・・い！ギーン！
目を閉じて背中の揺れを感じていると、突如森の中には似つかわしくない高い声が響く。
ザッザッと誰かが走り寄ってくる音がする。
重いまぶたを開けると、少し離れたところからこちらに駆け寄る亜麻色の少女が見えた。
「乱菊！」
すぐ近くから聞こえた声に、それはあの少女の名前だと知る。
「遅くなるなら何か言ってよ！心配したじゃない。」
「ご免な〜。」
「どうせ思ってないんでしょ。」
そう彼に皮肉を言って、少女は少年に背負われたAに気付くときゃ！と小さく声を上げ驚いた。
「大変っ！お風呂沸かしてくるわ！！」
そう言うと勢いよく振り返り今きた道を慌てて引き返していった。
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作者名：おもち | 作成日時：2020年8月3日 17時
