5 ページ5
.
.
咲き誇っていた桜が風に揺られて、別れを告げるように散っていく。
春が終われば、夏が来る。
これは自明の事だけれども、それでも胸が苦しくなる。
いつものように電車に揺られて、電車の窓から外を眺めていると左肩を叩かれた。
視線を傾けると、見覚えのある黒髪が目に入った。
「え、越前先輩！」
「ん、おひさ。」
あの頃よりも表情が優しくなった越前先輩。
表情筋ないんですか、と笑いながら話していた頃を思い出して頬が緩んだ。
「そっか、越前先輩の大学こっちの方ですもんね。」
「そ。…もう高校三年生か。早いね。」
越前先輩は、私と一切視線を合わせる事なく小さく呟いた。
電車が、ガタンガタンと揺れる。
「越前先輩が大学二年生っていうのが私は信じられませんよ。」
「…にゃろう。」
越前先輩の視線が私に向けられた。
大学生は高校生の私から見たら凄く大人だ。
高校生の私よりも何歩も先を歩いていて、余裕がある。先に進むことができる、振り返ることも、止まることだってできる。
ふつふつと浮き上がる余裕が、私の心を埋めつくしているようで制服の裾を掴んだ。
電車の揺れも、電車に流れるアナウンスも、電車にいる人も。
今の私にとっては、センチメンタル以外のなにものでもないのだ。
「上手くいってんの？」
「へ？」
「不二先輩と、上手くいってんの？」
もう就職決まっただろ、とまた窓の外に視線を逸らした先輩の横顔はやはり私よりも何歩も先にいた。
「決まりましたよ、就職。第一希望だったところなので、すごく嬉しがってました。」
そう、と越前先輩は小さく呟いた。
「…上手くいかなくたっていい。幸せな道を探すのが一番だと思うけど。」
ドラマのワンシーンかのように、電車のアナウンスに止められた時間。
「あ、」
「じゃーね、せいぜい受験落ちないようにね。」
表情が少しだけ優しくなった先輩は、口角を少しだけ上げて微笑みと、リグレットを残していった。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 92人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆーり - めちゃくちゃ感動しました！あえて主人公に手を出さないところとかがめちゃくちゃ不二っぽくて！ほんとに感動でした！ (2021年3月14日 16時) (
レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
桜田 しおり(プロフ) - 鮎太郎さんさん» そう言って頂けて嬉しい限りです。これからもこの作品をよろしくお願いします！ (2018年9月29日 20時) (レス) id: ef32a79d1d (このIDを非表示/違反報告)
鮎太郎さん - ヤバイです！不二先輩かっこよすぎます！ (2018年9月27日 22時) (レス) id: 41a4e5daec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桜田 しおり | 作成日時：2018年9月14日 7時
