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「加減はどうだ、左近」
幕舎に入った殿は、一度俺の状態を見回してから言った。
「ええ、頗るいいですよ」
「その割には随分な傷のように見えるが？」
「ええ、まあ、傷自体は深手です」
しかしね、殿。
これは俺にとって意義のある傷なんです。
「どういう意味だ」
首を傾げて聞き返す殿。
まあ、分からなくて当然でしょうな。
「殿、俺は早くこの傷を治したいです」
治して、負傷兵から殿を支える軍師、島左近に戻ります。
「...ああ、分かっている。だからさっさと寝るがいい。後のことは俺と吉継でなんとかしておく」
話を煙に巻いたが、逐一詮索しないのが殿の良さだ。
「すみませんね。殿」
幕舎を出ていくの見送り、天幕を見る。
「諦めろ。って、ねえ」
勇士殿の言葉を思い出す。
彼女のことはよく理解してるつもりだった。
あんな言葉を聞かされて、諦める訳にゃいかんでしょ。
大きく息を吸って吐き出す。
目を閉じて今戦場で戦っているだろう彼女の姿を描いた。
「俺も、まだまだだってことだね」
にやける口元もそのままに一つ笑った。
「勇士殿」
「なんだ、左近」
「俺は貴女愛しています」
「知っている」
「ええ。俺も知ってます」
「もう私を庇うな」
「それはできませんな」
「なら、私もこれからはお前を庇うとしよう」
「それはやめてくださいよ」
「できないな」
私だって、お前が私以外の人間に斬られるなど耐えられない。
「嬉しいこと言ってくれますね」
そんなに俺のことが好きですか？
「そうしたのはお前だろ」
「そうですね」
「手、握ってもらえますか」
「...これでいいか」
「ええ。もう離しませんよ。二度と」
「なら離してくれるな。私より先に」
本当に、不器用ですな。貴女も、俺も。
重なった掌の熱が指先で交差する。
「愛してます」
「...私も」
愛している
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作者名：甲斐櫓 | 作成日時：2018年6月22日 0時
