アルフェラッツの傾慕【瀬名 泉】

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「 知ってるか、瀬名泉！モナ・リザは名前じゃないんだぞ！ 」



「 へぇ 」



相変わらずスケッチブックを構えたまま鉛筆は動かさない彼女の言葉を聞き流して 彼女の髪先を弄んでいた。




「 モナ というのは Madonna という意味で、“ 私の婦人 ”ということを表すんだ、つまり“ 私の愛しい人 ”と言う意味だよな 」


「 あんた、髪の毛綺麗だよね 」


「 聞いてるか！？ 」



聞いてるよ と言いつつも美術室の壁に飾られたモナ・リザを見る。愛されて愛されて生まれた作品だから、綺麗に見えるのかな。愛されて愛されて、アイドルだってキラキラ輝く。



「 いつかそんな絵を描いてみたいなぁ 」


「 まずは好きな人作らないとだねぇ 」


「 そ、そういうことじゃ、なくて… 」



じゃあどういうこと と頬に手を添わせると彼女の肩がびくんと跳ねる。いちいち反応してくれるから面白い。



「 ち、近いわぁ！ 」


「 ちょっと引っ張らないで、痛いなぁ 」



赤く染まる彼女は初々しくて笑みが漏れる。離れれば彼女は俯きながらも話を続けた



「 リザ、という愛称の女性なんだ、だからモナ・リザ。だから私も、 」


「 だから？ 」


「 そ、そんな風に愛されてみたい 」



予想外の言葉に声を上げて笑えば、笑うな！と胸を叩いてくる。至って真剣そうだから、少しだけ笑うのをやめて、小さく呟く彼女の声に耳を澄ませた。



「 …私は歌が下手で友達がいないから 」


「 かわいそ 」


「 うるさいっ！ 」



授業にはあまり出ていないと聞いている。友達がいない故の放浪癖か、それとも逆か。
いずれにしろ何でもできる彼女に皆一目置いているのだろう。声楽科なのに歌が下手な彼女を蔑んでいるのかもしれない。そんなのあんた達が手を引いて教えてあげればいいでしょ なんて苛立った気持ちに蓋をした。





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