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つばが深い帽子と、伊達眼鏡。それにマスク、そして水色のマフラー。
他人の目を遮れば陸上の記録会だって見に来ることができるのだ。
彼女が走るのはもう少し後だけど、何かあったときのために早めに と思ってきたところかなり早くに着いてしまった。
冬の風が頬の横を通り抜けていく。カラッと晴れた空は乾燥していて、素肌を晒している陸上部員たちは辛そうだ。
空いた席に座って放り出した足を折り畳んで椅子の上に体育座りした。小学生みたいな体勢だけれど、寒いのだから今はしょうがない。
「 ねぇ、知ってる? 」
「 …あー、七瀬Aのこと? 」
よく知った名前を耳にして弾かれたかのように振り向いた。他校のユニフォームにウインドブレーカーを羽織った女子が二人、寒そうに手を擦り合わせている。
そんなに彼女は有名なのだろうか。
息苦しくなってマスクを顎まで下ろした。バレなければ、話しかけなければ、大丈夫。
「 最後の大会なんだってね 」
「 …あぁ、確か 」
“ ___足の怪我でしょ? ”
彼女の夢は何か、聞いたことがあった。
ただ単に、天才の夢が何か、気になったから。
【 んー、世界の舞台で走りたいな! 】
彼女に問うたことがあった。
なんでもできるのに、何故その夢を選んだのか。
彼女はこう答えたのだ、自分は走ることが好きだから と。0.1秒の世界で戦うのが楽しいのだ と。自分から陸上をとったら正直全ての自信を喪失してしまう と。
【 負けることもあるさ、私だって人間なんだから。でもただただ走ることが楽しいんだ。やめられない。もしやめることになれば生きる気力さえ…なくしてしまうだろうな 】
「 残念だよね〜、あんな期待の選手が。業界からも引っ張りだこだっただろーに。 」
「 まぁ、怪我しなければね。私たちにとっては到底届かない人だったけど。」
「 A 」
ぽつりと呟いた俺の方を女子二人が見る。
「 え、瀬名泉…!? 」
「 ま、じで!?ほんとに!? 」
きゃあきゃあと騒ぎ立てる女子たちを他所に立ち上がると長い足を持て余してクラウチングスタートの体勢をとる七瀬Aが見えた。
乾いたピストルの音。
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ねむい(プロフ) - minatoさん» そのように感じていただきとてもうれしいです;;お読みいただきありがとうございました。細かい点まで読んでいただき、嬉しい限りです。これからもどうぞよろしくお願い致します。 (2017年12月26日 14時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
minato(プロフ) - コメ失礼します。お話、すごく良かったです...!ねむいさんの表現や、情景描写がすごく綺麗でせないずの精巧な美しさというか繊細な美しさ的なもの(語彙力不足)と表現によって引き出された情景や登場人物の美しさに感動しました。一言でいうと好きです((お疲れ様でした! (2017年12月26日 14時) (レス) id: 049240713a (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - しみ猫さん» とても嬉しいコメントありがとうございます、そのように感じていただけて嬉しい限りです。お読みいただきありがとうございました! (2017年12月13日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
しみ猫(プロフ) - 感動しました、夢主の天才だけど、とても人間らしくて、読むのがとても楽しかったです、すばらしい作品をありがとうございました。 (2017年12月13日 23時) (レス) id: 48eca2380d (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - イチゴプリンさん» ありがとうございます〜!いえいえ、拙い文章ですが楽しんでいただけたのなら幸いです;; (2017年12月10日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2017年12月6日 18時