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風を切る彼女を見たら何故か笑みが漏れた。
彼女のように、大好きだ なんて言いたくなるぐらいには走りに魅了される。
褐色の地面に引かれた白い線を越えて、割れんばかりの歓声。
拍手の音に驚けば、夢ノ咲の生徒に向かって彼女がVサインを飛ばす。それに答えた生徒も 彼女と仲良くするのは大会の時だけ、彼女がいい結果を残した時だけなのだと理解すると共に若干の苛立ち。
ただ好きだから という理由で陸上を続けた彼女は少し王さまに似ていた。“ 天才 ”と呼ばれても、元から足が速かった訳ではないのだという。血の滲むような努力があったからこその才能だと思えば、怪我も不思議じゃない。
つまり、走ることは 彼女に元からあった才能ではないのだ。
走ることにおいては 彼女は天才ではない。
「 せな… 」
白い肌にウインドブレーカーを羽織って、会場の外で一人でテーピングをしているところに近付けば 顔を上げた彼女と目が合った。
「 なんで、なんで見に来たんだ、なんで…っ 」
「 ばっかじゃないのぉ、昨日自分も見に来た癖に 」
なんでそんな泣きそうな顔なの。やめて、もうそんな顔。
「 …見に来るなと言ったのに 」
「 昨日の仕返し 」
口角を少し上げてしゃがむ。目の中に弱々しい光を瞬かせた彼女は俯いた。
「 …瀬名、落ち着いて聞いてくれ、私は。私はもう、 」
「 知ってるよ、そんなこと 」
驚く彼女の頬を両手で包んだ。自分の唇が彼女の鼻先に触れた瞬間が感じられるくらい、ゆっくり時間が流れていく。
「 …A、よく頑張ったねぇ 」
「 …っうぅ、っ 」
今まで他人の涙なんて、見てもどうってことなかった。特に女の涙なんて、自己満足だけだと、そう思っていた。
彼女の名前に モナ をつけたい。
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ねむい(プロフ) - minatoさん» そのように感じていただきとてもうれしいです;;お読みいただきありがとうございました。細かい点まで読んでいただき、嬉しい限りです。これからもどうぞよろしくお願い致します。 (2017年12月26日 14時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
minato(プロフ) - コメ失礼します。お話、すごく良かったです...!ねむいさんの表現や、情景描写がすごく綺麗でせないずの精巧な美しさというか繊細な美しさ的なもの(語彙力不足)と表現によって引き出された情景や登場人物の美しさに感動しました。一言でいうと好きです((お疲れ様でした! (2017年12月26日 14時) (レス) id: 049240713a (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - しみ猫さん» とても嬉しいコメントありがとうございます、そのように感じていただけて嬉しい限りです。お読みいただきありがとうございました! (2017年12月13日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
しみ猫(プロフ) - 感動しました、夢主の天才だけど、とても人間らしくて、読むのがとても楽しかったです、すばらしい作品をありがとうございました。 (2017年12月13日 23時) (レス) id: 48eca2380d (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - イチゴプリンさん» ありがとうございます〜!いえいえ、拙い文章ですが楽しんでいただけたのなら幸いです;; (2017年12月10日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2017年12月6日 18時