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嫌がらせは頻度も悪質さも増していくばかりだ。
少女に対する鬱憤もそうだが、それとは全く関係のない日々の憂さ晴らしにまで少女を利用するようになった。
ただ音楽を提供出来ないと断っただけで、この様な事態にまで発展するとは恐らく誰も想像だにしないだろう。
手洗い場に行こうとすると、「どうせまた水をかけられるんだろう」と確実に起こると理解してからは身構えることも恐怖もなくなった。
個室に入ると上から案の定飽きもせず水をかけられる。
少女は何も言わない。
だが今日は雰囲気が何時もと違っている。
どうやら佐伯の娘は一段とご乱心で、愚痴を零しながら個室から出てきた少女の胸ぐらを掴んで突き飛ばした。
衝撃で肩に身体を打ち付け、床に尻もちを着く。
「役立たず。」
「アンタの曲なんてゴミ以下。本当気に食わないし使えない。」
彼女らのいじめの日々において、曲の話が出てきたのは実は今回が初めてだった。
日常生活で彼氏がどうだ、とか教師の説教が、とかそんな個人的なストレスを少女にあたる事で発散させることはあっても、そもそもの根本的なきっかけとなる曲に関しては触れる事さえ無かったのに。
音楽プロの父親の指示で動いているという事は当初から勘づいてはいたが、何故今になって言及されるのかは意味が分からない。
後から追いついたのか、やや息を切らした友人が問う。
「何、どうしたの？」
「朔間さんにこの曲渡したの。お父さんも上手くいくって言ってたのに、私名義で渡したら突き返された。」
「楽譜にコイツの事が分かるもんがあんじゃないの？」
「無かった！これで朔間さんが受け取ってくれさえすれば、もっと近付けるって思ったのに！」
渡した…？
私の曲を…？
彼女の言動は思ってもみなかったし、何より無理があるだろうと冷静に判断している部分もあったが
少女は混乱していた。
少女が渡しても、同じ結果になるのではないか、と。
「コイツも朔間さんも思い通りにならないし。」
支離滅裂で無茶苦茶すぎる。
彼女は零に近付ける方法を探していた。
一方で父親は音楽プロで力を得たいが為に、強力な人材を探していた。
そこで、父親が先に目をつけたのは少女だったが音楽提供を断られ断念したと思いきや
学院に通う自分の娘に曲を盗み、零にそれを渡す事によって零も曲も手に入れようという魂胆だったのだろう。
「もういいわ。何奴も此奴も。…絶対この事誰かに話すわよね、アンタ。」
当然、首を振りはしない。
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
