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あの後薫に送られて、用は一段落したのだが
「嬢ちゃんにかっこ悪いと言われる日がくるとは…しくしく。」
と、あからさまに傷付いている感を出してくるので少女は自分の発言に後悔を覚えていた。
『まだそれ気にしてるんですか…本気じゃないですから。』
「そんなの知っておるよ。…じゃが嘘でも直接言われると傷付くんじゃよ…。」
零の自己肯定感の高さと謎の自信は一体どこから来るのだろう。
何時もの音楽室で、意味の無いやり取りを永遠とし続けているせいで目的のピアノを弾くことが出来ずにいる。
『はいはい！かっこいいですから！かっこ悪いって思ってないってこと知ってるならこれ以上掘り下げないでください！』
「嬢ちゃんが言ったせいでこうなっておるのに…。」
『気にしなくていいものを自分で気にしてるくせに何言ってるんですか。』
会話を断ち切るように、少女は一呼吸置いてからピアノを弾き始める。
旋律が部屋を満たし、流れてゆく。
静かに耳を傾ける零は、少女を見つめている。
しかしその曲は零の聞いた事のないものであった。
弾いている少女に零が問う。
「これは何の曲じゃ？」
弾く手は止めず、少女は零の質問に答える。
『…私の曲です。』
その返答に零は顔を明るくして、少女に近寄る。
「嬢ちゃんの曲かえ…！？どうりで…良い曲だと思ったんじゃよ。」
頷きながら納得したように言う零。
ぴたりと、手を止める。
少し残念そうな顔をした零が、なぜ止めたのかを聞いてきた。
少女は端的に、まだ未完成だと答えた。
「完成したらまた聞かせておくれ。」
『…完成したら、ですよ。』
零は、その曲が完成するかも分からぬはずなのに
それがきっと出来上がると未来を見据えているように毎度信頼と期待を含んだ瞳で少女にそう言うのだ。
プレッシャーの様な物はあるが、そう重く感じないのが不思議な所である。
零の信頼は背負っていて心地の良いものだった。
沈みそうなものを底上げしてくれるような力がある。
『…そういえば、今度学院内でライブがあるんでしたっけ…。大会、的な。』
「そうじゃよ。見に来てくれるのかえ？」
断られる事を前提に揶揄う程度に少女に聞くと、少女はもごもごと何か言った。
聞き取れず零が聞き返すと、少女は今度ははっきりとした声で
『…い、行きますよ。ライブ…見に。』
「へ…？」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
