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昼頃、楽譜入のファイルを詰めた鞄を引っ提げて寮室から出る。
廊下には男子生徒だけでなく、ちらほらと女子生徒の姿も伺える。
しかし当然ながら、女子の人数は男子に比べれば八対二位の比率で、少ない。
だからこそ女子は女子同士で固まりやすい。すれ違う人が大抵知り合いのようになるからだ。
けれど少女は人付き合いを苦手としていて、友人が居ない訳では無いが、放課後遊びに行ったりするほどの仲を築けているかと言われれば、そこまででもないのだ。
程よいよりも少し疎遠な関係性。
孤独と言われたら、孤独だ。
視界の端っこで、何やらこそこそとしている数人の集団を見つける。
別段、特別に気にしては無いけれど。
入学して一ヶ月程から始まって、それからずっとこの調子で数ヶ月経ってもああなのだ。
被害妄想と言えばそれまでだが、見ず知らずの数名の男女の集団とやけに視線があったりする。
そうして偶に笑われもする。
気の所為なのだろうが。
仮に気の所為ではないとしても、仕方の無い事だと少女の中で割り切っていた。
思い当たる要素が無いわけじゃないのだから。
正直、自分の学科の知り合いより男子生徒のみのアイドル科の方が零との接点から知り合いも多い。
他学科と他学科、ましてやアイドル科の人気グループのメンバーの内の一人と歩いている姿を見られるだけで変な噂が立つ。
自分の周囲もそんな話題で持ち切りなのだから。
その対象が自分に向いているだけだ。
気に入らないのかもしれない。
後方から視線を感じて、振り向くと集団が縮こまってこそこそと話し始める。
その視線から逃げるように、足早に音楽室へ向かった。
見てていいものじゃないのは確かだけど、きっかけを作っているのは自分だ。
そう、何時も自分なのだ。
あの変な七不思議の噂も。
零が音楽室に足繁く来るようになるのも。
零と上手く話さなくなったのも。
きっかけを作っているのは自分だ。
だから、「私は何もしてない」なんて無責任な事言えない。
何もしていないなんて嘘なのだから。
音楽室を開けようとする自分の手が、入ろうとする足が鉄や鉛のように重い。
悪いことばかり考えている暇なんてない、そう心に言い聞かせて扉を開ける。
「お。待っていたぞよ、嬢ちゃん。」
何時ものカウチに寝そべっていた零は身体を起こして手をひらひらとこちらに向けて振った。
後ろ手に扉を閉め、軽く会釈をする。
「今日は何を弾くんじゃ？」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
