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寮について、真っ先に少女に指示した事は風呂に入れだった。
女子を男子寮に連れ込んでいると言われてもあながち間違ってはいないこの状況だが、仕方がない。
少女も流石に首が取れるんじゃないかと言う程首を振っていたが、無理矢理にでも押しやって入らせた。
制服の代わりに着るものを見付けるのに苦労はしたが、随分前にブランドの案件で貰ったパーカーが余っていたのでそれを着てもらうことにした。
一通りの事を済ませ、自分も楽な部屋着に着替えベッドに腰掛けて読書をしながら待っていると、
洗面所から少女が顔を覗かせた。
「お。終わったか。」
しかし覗くだけで此方に来ようとはしない。
「なにしてんだよ。」
『制服…』
「洗濯。」
『このパーカー…』
「随分前に貰ったやつ。」
短く返事をするものの、一向に出てこない少女にしびれを切らした零が催促すると渋々と出てくるものの、渡したパーカーの裾を掴んで長さを確認している。
零が着ると丁度いいサイズなのだが、少女が着るとメンズものなのでかなり大きくダボついている。
「似合ってるから大丈夫だよ。ほら話の続き。」
ぽすん、と横に腰を下ろした少女とは未だに一瞬ほどしか目線が合わない。寧ろ目を見て話そうとすると顔ごと逸らして話にならない。
「さっきまで泣きそうなツラ下げてたの気にしてんのか？」
『…違う。』
「はっ、嘘下手くそ。」
嘲るようにからかって笑う零を横目で睨む少女、だがしかし不思議と彼の横に自分が座っても良いこの空間に安心感を感じていた。
又、先程も今も零の口調は昔のままだ。
仲間内でもあまり使う事の無いこれが、少女の時はよく使われるのだ。
面倒をかけてしまっている状況なのだが、優越感と特別感のようなものを心のどこかで感じてしまう。
己のこういう所は少女自身もあまり好いてはいないけれど。
「…思い出したんだけどよ、ちょっと前に楽譜渡しに来た女子が居た。それと関係あるか？」
少女には勿論心当たりがあり、頷いた。
佐伯の娘が渡したあの曲は自分の書いた曲だったのだが、零はそれを受け取らなかったらしいのだ。
何故なのかは分からないが、それを聞くべき時が今という事は頭では理解している。
しかし聞くのはどうも、億劫で言い出せそうにもない。
すると零はこう言った。
「あの曲、Aが書いたやつだろ。」
少女は目を大きく見開いて、零の方を見た。
『え…？』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
