薄桜鬼〜地球儀の廻り〜最終章より

言葉足らず ページ30

華成さん達が暮らす小さくも温かい小屋に来て、伊那さんは一つ語りだした。

伊那「斎藤ちゃん、未来に行って変わっとった事ってあった？」

突然、そう問われ私は首を傾げる。
現代に戻ってから６年間の事を思い返すと、これと言って変わっていたと言う印象を受ける出来事はない。
暫しの思案も虚しく、私は首を振った。

伊那「斎藤ちゃんが現代におると、“土方歳之”は生まれやん。
華成ちゃんが現代におると、“斎藤A”は生まれやん。
斎藤ちゃん、華成ちゃんが幕末におると、二人は生まれる。」

何故、伊那さんはそれを知っているのか。
そんな疑問も浮かんだが、それは伊那さんの次の言葉で無になる。

伊那「簡単な事なん。
過去に足りやん欠片があって、それを一つ一つ治していけば未来ってすぐ変わる。
“大葉和希”も足りやんだ欠片を当てはめたから存在しとる。」

女性らしい柔らかな笑みで伊那さんは瞳を細める。
伊那さんの真意がまだ読み取れない私は、再び首を傾げた。
だが、大人らしくなっても、伊那さんは伊那さんだった。

伊那「斎藤ちゃんが望む欠片、見つかったな。」

思わせぶりに説明し、言葉足らずで全てを語らない。
分かっていても、その続きが気になる。

貴女「あの・・、意味がわかんないんですが・・」

餌を欲する鳥の様に私は伊那さんに続きを強請る。
だが、教えてくれないのがこの人。
マイペースな仕草で唇の前に人差し指を立ててしまった。
ここまでしか教えない、と言う様に・・

華成「まぁ、いいじゃん。
狭いけど、今日は皆泊まっていきなよ。
色々と話したいしさ。」

そして、マイペースな人がここにもう一人。
嬉しそうにウキウキしている華成さんを見ていると、どうでもよくなってしまう。

私はトシを顔を見合わせ、苦笑すると大きく頷きあった。

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